KOF

□それはダメ
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片手には大好きな酒。テレビでは大好きな格闘技が放送されている。
そして隣には大好きな名無し。
シェンは上機嫌だ。

「名無し、ほら、格闘技」
「うーん」

格闘技はつまらないと言い、先程から携帯ばかり見ている名無しの気を引こうとするが、返ってきたのは腑抜けた声。
名無しのそんな様子から、シェンは何を勘違いしたか「余りにもテレビに夢中だから拗ねてるのかな」と思ってしまった。

「名無し」

ご機嫌取りにキスでもしようと顔を近付ける。

「ちょっと、シェン邪魔」

少し怒り気味の名無しは寄ってきた彼の頬を押し、引き離した。
どういう事だとシェンの頭は混乱してしまう。
名無しは何もなかったかのように顔を背け、視線はまた携帯へ。

「おい、名無し!」

あまりにも携帯ばかり見ているので、シェンは不審に思い声を荒げた。

「シェンうるさい。今、アッシュと恋愛してるんだから」
「……は?」

アッシュと恋愛とは、どういう意味なのか。予想通りやはり浮気なのか。

「…アッシュって、アッシュ・クリムゾンか?」
「うん」
「お前!携帯貸せ!」

名無しから携帯を引ったくり画面を見ると、やたら小綺麗なアッシュの顔があった。
しかし、何処かで見た事があるような、ないような。

「返してよ」
「…これ、名無し…」
「DOMだよ。シェンも友情出演したでしょ」

そうだ。それはいつだったかアッシュに「シェンも出てヨ!」と言われて、半ば強制的にデュオロン共々引っ張られて行ったものだった。

「何でお前がこんなモンやってんだ!」
「結構ゲームならジャンル問わず好きだしさ、イケメン揃いじゃない? 草薙さんにアルバさんにロック君に」

シェンと言う愛しい彼氏が居ながら、目を輝かせている名無し。
余程ゲームが楽しいらしい。

「このアプリ、消すぞ」
「は!?ふざけんなよチンピラ!」

シェンは彼女の反抗期さながらの威嚇に怯え、下手に出てみる。

「315円やるから、な」
「そう言う問題じゃない!」
「じゃあ、俺も恋愛シミュレーションゲームやってて良いのか?」
「…そ、それは……」

名無しは口ごもり、ぐうの音も出なくてやがて黙った。
これを肯定と受け取り、アプリを消そうと携帯を持ち直す。

「じゃあ削除だな」
「待ってよ!」
「なんだよ?」
「シェンが出てるから…シェンが出てるからやりたかったの」

大きな目にうっすらと涙を溜めて上目遣いで彼を見上げる。
不覚にもドキドキしてしまう。

「シェンが好きだから、ゲームでも会いたくて。アッシュのルートにシェンが出るんでしょう?」
「名無し!」

たまらなくてぎゅっと抱きしめる。名無しはシェンの腕の中で、この人がバカで騙されやすくてよかったと、ほくそ笑んだ。

「シェン…ごめんね?」
「良いんだよ」
「ありがとう...」

騙されているとは知らずに「名無しはこんなに俺の事を愛してくれるんだ。俺は世界一の幸せ者に違いない」と思った彼は、間違いなく幸せ者だろう。

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