KOF
□呪いのアテナ人形
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「良い物を拾ってきました!これはきっと運命ですね」
ジョンは家に帰ってくるなり、満面の笑みで一体の人形を私に見せびらかした。
それはアイドルの麻宮アテナの人形で、何処かに捨てられていた物らしく、薄汚れている。
「そんなの拾って来ちゃ駄目だよ…」
「大丈夫ですよ。名無しは心配性ですねえ。ね!アテナさん?」
ジョンは人形の頭を撫でながら話し掛けた。
家には麻宮アテナの人形もポスターもCDも沢山ある。
こんな事は日常茶飯事で、私は既に諦めていた。彼は筋金入りのアテナ好きだ。
でも、何故だかわからないが、私は今までに感じた事の無いような不安に駆られている。
「汚いし…良くないよ。ジョン、捨ててきてよ」
「ちゃんと拭いてあげれば綺麗になりますよ。ああ、アテナさん…」
大変喜んでいる彼には申し訳無いが、その人形が気持ち悪くて仕方ない。
家にある他のアテナ人形とは何かが違う。
次の日の朝、丁度燃えるゴミの日だったので、心の中で謝りながらジョンには内緒で人形を捨てた。
夕方、仕事から帰ると、玄関の前に何かが転がっているのが遠くから見える。
「………嘘でしょ…?」
アテナ人形だ。
薄汚れているそれは、まさに私が朝捨てた物だった。
ジョンがまた持って帰って来たのかと思ったが、彼に捨てた事を話していない。
それに、ジョンはまだ帰って来ていない様子だ。
「誰がこんな……」
気味が悪い。
私は日の暮れない内に、人形を掴んで近くの神社に走った。
そこは人形供養の神社では無いし、ゴミを捨てる事になってしまって悪いとは思ったが、もうこれしかなくて、こっそり境内に置いてきた。
家に戻ると、家中のありとあらゆる電気を点けて布団に潜り込んだ。
暫くすると玄関の開く音が聞こえ、足音がこちらに向かってくる。
「ジョン!?早くこっちに...」
ジョンだと思い顔を出すと、すぐそこには無表情な人形の顔があった。
あのアテナ人形だが、違う。三歳児くらいの大きさになっているのだ。
「……ひ、あがっ」
叫ぼうとしたら首を絞められ、呼吸が出来ない。
「……た……けて……ジョ……ン」
無表情な人形の顔を見つめながら、意識が遠退いていくのを感じる。
もうダメだ。最後にジョンに会いたかった。
いよいよ危なくなってきたその時、こちらに走ってくる音が聞こえる。
「名無し!!」
「ジョ…ン」
「満月斬!」
ジョンの満月斬が人形に当たり、顔が半分砕け散った。
足元がフラつき、ガシャンと音を立てて床に倒れる。
「名無し!大丈夫ですか!?」
「ゲホゲホッ…ガハッ……大丈夫…」
喉を抑えて起き上がると、ジョンがきつく抱きしめてくれた。
横目で人形を見ると、まだ手足がカタカタと密かに動いている。
「ジョン!人形…!」
「人形供養の神社に持って行きましょう。…すみません、名無し…」
「ううん…助けに来てくれたから」
「名無し」
ジョンが頬にキスをしてくれだが、甘い雰囲気にはなれなかった。
その後人形はきちんと供養され、もう恐ろしい目に遭うことは無かったが、それからと言うもの、家にあるアテナ人形が怖くて仕方がない。