KOF

□ジョー・パンツ・東
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「…わ…私!もう無理よ……!」

筋トレをしているジョーの前で、名無しは前触れもなくいきなり泣き崩れた。

「ど、どうしたんだよ!?」

慌てて腹筋を中断し、床にへたり込みさめざめと泣いている名無しに近寄り肩を抱く。

「もう、駄目よ私…」
「そんな事言うな!名無し、訳を話せ」
「私、耐えられないの。だって今日、会社で…」

ここ日本でもKOFは人気で、開催の日は殆どの人が中継を見たり、会場へ応援に行ったりしている。
今日、名無しの職場では数日前に行われたKOFの話題で持ちきりで、男女問わず盛り上がっていた。
お昼休みに数人の同僚とご飯を食べていると、今度はKOFで誰がカッコイイかと言う話になった。

「KOF見て思ったんだけどさ、やっぱり餓狼チームってカッコいいよねー!」
「分かる分かる!ねぇ、名無しもカッコいいと思うよね?」
「うん。思うよ!」

だってジョーがいるから。
そう思えば自然と心が温かくなって、口角が上がってしまう。

「私はアンディさんが好き」
「えー、私はテリーさんだなぁ」
「私はジョ...」

ジョー・東。彼の名を言いたかったのに、名無しの言葉を遮ったのは同僚の情け無用な発言。

「でもさ!一人論外が居るよねー!」
「いるいる!あのおパンティ男でしょ!?」
「おパンティって!笑える!」
「だってそうでしょ?」
「確かにあれはおパンティ以外の何者でもないね!」
「……...」

楽しそうな笑い声が飛び交う中、名無しの心は悲しみで溢れかえる。
そんな思いをしてきたことを、名無しはジョーに伝えた。
驚愕の事実に、ジョーは青ざめる。
まさか自分が「おパンティ」などと呼ばれていたなんて知る良しも無かったから。

「人の前でお尻出したりするしからおパンティなんて呼ばれちゃうんだよ!」
「あ、あれは挑発で…!」
「でも、他の人にジョーのお尻見られちゃうじゃない!」
「名無し…」

名無しはジョーの胸へ顔を埋め泣いた。
Tシャツはまたたくまに濡れていくが彼は何も言わずに抱きしめる。

「もう尻出し挑発はしない!」

ジョーは心に決めた。
もう名無しを悲しませやしないと。

「ジョー、良いの…?」
「俺は名無しが好きだ。だから」
「ありがとう...ジョー」

二人は抱き合い、お互いの温もりを感じる。かけがえのないものを再び確認して。

「尻出しさえ止めりゃ、おパンティなんて呼ばれねえだろ!」
「うん!そうに決まってるよ!」
「世間の呼び方はムエタイのお兄さんになるはずだ!」
「素敵!!」

もう、パンツとは呼ばせない。
大切な何かが手に入るなら、個性は失ってもかまわなかった。

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