KOF

□彼氏は極貧流
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ガコン、と凄まじい音を立てて建て付けの悪くなったサカザキ道場の戸が開いた。
門下生達もリョウも、皆一斉にそちらを見る。

「名無し?」
「ふふ...こんにちは。リョウ師範」
「な…何故それを!?」

怪しく笑う名無しは、いつもとは違う呼び方で彼を呼ぶ。
聞き覚えのあるそれに、リョウの背筋は一瞬にして凍った。

「リョウ師範、門下生の女子高生は可愛かった?」
「名無し、そ、外に出よう。な?」

冷や汗をかいたリョウは名無しの手を引き庭に出た。
ちらりと名無しを見ると、怪しい笑みは消えていて、今にも泣き出しそうな顔をしている。

「悪かった。本当にすまん!」
「…私の事、嫌いなの?」
「好きだ!好きに決まってるだろう!」
「じゃあ何で恋愛ゲームに出てるの!」

そう。彼、リョウ・サカザキはDays of Memoriesと言う女性向け恋愛シミュレーションゲームに、名無しには内緒で出演していたのだ。

「本当にすまん!金が無くて…やむ無く恋愛ゲームに出稼ぎに行ったんだ」
「やむを得ずの割には渾身の演技だったと思うんだけど」
「………え?」
「おまえを助けたい。おまえを守らないと、と思ったとき、俺は自分の限界を超えられた」
「わー!何で覚えてるんだ!」

リョウは慌てて名無しの口を塞ぐ。
自分のセリフを並べられるのは、こうも恥ずかしくて仕方のないものなのか。

「名無し、駄目だ。セリフは駄目だ」
「………恋が拳を狂わせるんじゃない。恋になって臆病になる心が…」
「極限流奥義!」
「ちょっと!龍虎乱舞で逃げないでよ!」

突然、龍虎乱舞で飛んで行こうとするリョウの肩を名無しはガッシリと掴む。
名無しの力が異様に強くて、もう逃げ場は無い。

「すいません。本当、平にすいません」
「…私はあんな甘い言葉、言われた事無い」
「…………名無し…」
「他の人にあんな事言っちゃうから、悲しくなって…」
「ごめん、名無し」

頬をつたう名無しの涙を、優しく指で拭う。
ぎゅっと抱き締めて、リョウは静かに呟く。

「金が無いからって、あんなのに出てすまなかった。…もう迷わない。俺は名無しが好きだ!!」
「…………リョウ…」
「名無し…」
「それもDOMのセリフだよね?反省してるの?」
「ごめんなさーい!」

この後門下生達の稽古が終わってからリョウは道場に正座させられ、名無しの説教を三時間程喰らい、更に反省文を何枚も書く事になった。

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