KOF2
□君がいるなら地獄だって
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例え今日が土日でも、更正と言う名の地獄の特訓は無しにならない。
しかも今日は真夏日で、気温は30度近く上がっている。そんな日差しが強い中、チョイは一人でランニングに励んでいた。
「疲れたでやんす…」
ヒィヒィと息を上げる。最早歩いている方が速いような速度になってきた。
キムが一キロ程ある庭を50周して来いと言ったし、キム自身が傍で見ているから数をごまかすなんて到底無理なのだが、今が49周目で、あと一周走れば終わる事を励みにすると、重たかったはずの脚が自然に軽くなった。
「よくやったぞ!チョイ!」
チョイはゴールと同時に倒れ込んだ。めまいか何かで真っ青な空が歪むので目を閉じたら、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「チョイさん。お疲れ様です」
ゆっくり瞼を開けると、そこにはキムの門下生の名無しが居て、チョイを覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?これ、飲んで下さい」
上体を起こして差し出されたスポーツドリンクを受け取り、喉を鳴らして一気に飲んだ。
「はぁ…生き返ったでやんす。ありがとうでやんす」
「チョイさん頑張ってましたね」
そう言って笑う彼女が、チョイにとっての癒やしであった。
「あっしが走っているのを、ずっと見てくれていたでやんすか?」
「当たり前ですよ!……その、頑張っているチョイさんは、素敵ですから」
聞き間違えでは無かろうかと、チョイは一瞬、自分の耳を疑った。
この暑い中、あんなに走ったのだ。頭が朦朧としていて、幻聴でも仕方がない。
寧ろ、今目の前にいる名無しさえもが幻覚なのではないかと、そこまで疑った。
「あ、あっしはおかしくなったんでやんすかね?」
「え?」
「名無しさんが、あっしの事を素敵だと言った気がしたでやんす」
「そう言いましたよ?」
「……本当でやんすか?」
「ええ。本当に」
いつもは褒められたらすぐに調子に乗るチョイだが、名無しに嫌われたくないので、あくまでも謙虚に振る舞う。
「あっし、凄く嬉しいでやんす」
「喜んで貰えて良かったです」
微笑む名無しは太陽より眩しくて、一生憧れで終わってしまうんだろうと、チョイは思った。
しかし、頑張ってキムの更正を受け、クールになれば、名無しと釣り合うようになるかも知れない、とも思った。