小説

□会えなくて、寂しくて
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ぷるるる、



ぷるるる、








…あぁ、やっとかかってきた。








愛しい愛しい君からの電話。


















「会えなくて、寂しくて」
























毎日、バスのみんなが寝静まった頃、


病院からかかってくる電話。











『…土門、俺』









「…おいおい、

それじゃオレオレ電話みたいじゃねえか…」












いつも、俺がそう苦笑してから始まる、

愛しい影野からの電話。


















『…どう、そっちは?』











「あぁ、一人メンバー増えたんだ。

吹雪ってやつ。



こいつがまた個性的なやつでさ…」













…内容はいつもお互いの生活についてで、


そんなに毎日
電話で話す内容でもないのだけれど。











だけど、









今の俺には、



その電話は無くてはならない程
大事な事だった。




















(寂しい)

















(お前が居なくて、寂しいよ)

























いつも喉のところでつっかかってしまう、



その言葉。






















言っても

どうにもならないことは分かってるし、








それに、影野を困らせてしまうだけだ。





















(なら、


こんな気持ちは伝えない方が

良いんだ)

















言いたくてたまらないけれど、





いざとなるとそういう結末に達してしまう…



















(――あぁ、今日もまた)














他愛もない、世間話。























こんな思いをするのなら、






いっそのこと、



俺も怪我をした方が良かったのかも、






なんて思ってしまうのは










罪なことなのだろうか…



























『…土門?』












は、



と我に帰る。
















「…あ、ごめん。

ちょっとぼーっとしてて…」




















…いけない。





考えに浸りすぎていた…






















『…土門、…何かあった?』






















「…いや、何でもないけどさ…











…つい、夜空に見とれちまって…」














我ながら
下手な嘘を吐いたものだ。




















『…そっか。




こっちも綺麗な夜空だよ』


















なのに、影野はそのまま信じてくれた。























(…綺麗な夜空、か)





















影野は今、この空を眺めているんだな…













なんてナルシストな事を思いながら、



俺も空を見上げる。

























…空は、雲ひとつ無い、






綺麗な星空だった。




















『…ねぇ、土門?』















「んー?」



















『会いたいよ』




















…その、






影野の苦しそうな細い声に。





















「…俺も」


















俺もまた、



心が苦しくなりながら





そう答えた…






















会いたくて










寂しくて















(きっと)









(君無しじゃあ、

生きられないんだろうなぁ、)












(…なんて、思いながら)




















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