小説

□部室へ行こう
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じーわじーわ。



ただでさえ暑苦しいこの夏日に、


暑苦しい蝉の鳴き声が辺りに響き渡っていた。







暑すぎて、ランニングの際発せられる掛け声も
少し小さく聞こえる。









俺はランニングを終え、
皆の座るベンチへと向かった。










「――あ、」










そういえば、

今日は俺が部室からあの大量のボールを
グラウンドへ持ってくる係ではなかっただろうか。






マネージャーが運ぶには重すぎるので、
交代制で部員が運ぶことになっていたのだ。











俺はベンチにたどり着く事なく、

部室へと歩く方向を変えた。








「あれ、影野休まないのか?」





半田はいつも真っ先に俺に気がついてくれる。







「…うん、今日俺ボール当番だから…」




すると、半田は


「一人じゃ大変だろ、俺も付き合うよ」

と駆け寄ってきてくれた。






「…本当?ありがとう…」






半田は優しいなぁ…




と思いながら、半田と部室へと向かおうとしたとき、




「どうしたんだよお前ら、休まないのか?」




と、円藤に話しかけられた。

俺がボール当番のくだりを説明すると、


「…な、… (影野と部室に二人きり!) …お、俺が影野を手伝うよ!


みんな疲れてるだろうし…」







――そう言った瞬間、
円藤の頭部に飛び膝蹴りが入った。




「ぶっ」




「()に何か出てるんだよ!」





マックスがそう言って舌打ちしながら
着地すると、


今度はにこにこと可愛らしい笑顔になって
こちらへと近づいてきた。





「…半田、僕が手伝うよ。
だから半田はゆっくり休んでて」



←直訳:「俺が影野と一緒に部室に行くんだよ。邪魔すると粉々にするぞてめぇ」








あれ、何か…「直訳」とか聞こえたような。








恐らく半田にもその「直訳」が聞こえたのだろう。



それきり半田は

冷や汗を流しながら黙ってしまった。













俺達の妙な雰囲気に気付いたのだろう。

ベンチに座っていた他の部員が
こちらへと歩いてきた。






「どうしたんだ?」






結局、全員が俺のもとに集まってきた。





…正直嬉しい。

いつも影の薄い俺が、
皆の輪の中心にいる…




幸せに浸っていると、





半田により状況を知った風丸や豪炎寺達が、

一斉に俺の方を向いた。










「…影野、俺と部室に行かないか?」




「こんな奴らと行ったら襲われるぞ!
俺にしておけ」




「そう言う鬼道こそ襲う気満々なんだからな!
騙されるな影野!」



「…もう、いっそのこと皆で行ったらどうでやんすかねぇ…」




「み、皆で強k…」


「復活して早々それか
この変態糞キャプテン!」


「…酷い」















…「襲う」?「強k」?




皆が言っている内容はあまり解らなかったけど、


ただ一つだけ解ったことがある。









「…皆、そんなにボール当番の仕事
好きだったんだね…。







じゃあ、俺はあんまり好きじゃないから、
当番の仕事、頼むよ…」












ただボールを出すだけの仕事なのに、


そんなに皆が好きな仕事だとは思わなかった。













やはり、自分は皆と違うのかなぁ…









そんなことを思いながら、


俺は休憩するためにベンチへと向かった…




















…何故か、皆は絶望したような顔をしていたけれど。















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