小説

□二心同体
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「 っぐ、あ゛ぁあがあぁぁあ゛…っ!!!」















気づけば、


自分の口からは

そんな悲鳴が漏れていた。















「  二心同体  」
























白が、


赤に、



侵食されていく。








僕の体温が少しだけこもったその赤が、


真っ白な雪原を、侵していた。













ぐぐ、と力を入れて
その刃物を体に押し込むと、





必然的に吹き上がる、赤い赤い血。










それが吹き上がると同時に、






僕の口は悲鳴を発していた。









無論、その口は僕のものだけれど、



その悲鳴は、あつやのもので。









僕はというと、




白い雪原の上で横たわり、




右手で刃物を押し込みながら、


震える左手で
手鏡を自分に向けていた。








ぐぐ、ぐりゅ





「あ゛あ゛っ!!ぁあ゛ああぁあ゛ぁあああぁああがぁあ゛あぁぁあ゛あああ゛」








あつやが悲鳴を上げる瞬間、



手鏡にはうっすらとあつやの顔が写し出された。










…でも、

「そう簡単に意識を渡したりなんかしないよ」










せっかく君を殺そうとしているのに、


意識を奪われちゃ、
助けを呼ばれてしまうからね。









僕が少し抵抗に力を入れると、


すぐにあつやの顔は僕の顔に戻った。











…自分の顔を見ててもつまらない、


と、



また、刃物を奥へと押し込む。



















その繰り返し。

















けれども体は

その繰り返しにはいつまでも耐えられないようだ。













少しずつ、体が動かなくなってきている。











…もう、死ぬのも時間の問題か。














「…っは、はぁ…っ……ねぇ、あつや?」








…しかし、返事は無い。





あつやは痛みに耐えるのに必死なようで、




時々苦しげな顔を鏡に浮かび上がらせると、



また僕の意識に塗りつぶされていく。










「…もうすぐ僕達終わり、なん、だからさ、
…はっ…、はぁ、




…少しお話しようよ…ね?」

















暫く右手に力を込めるのを止め、

待っていると、




顔を青白くさせたあつやの顔が、

鏡に映った。












――呼吸が荒い。















「…大、丈夫?」



少し心配になって聞くと、









「…大丈夫な訳、無ぇだろう、が…!



何がしてぇんだ、てめぇ…!」







と、


怒りを露にされた。










…まぁ、当然の反応だろう。




ここまで痛めつけられて
不満を持たない者などいない。








…でもまぁ、そんな怒った顔も可愛いんだけれど。










「…うーん、そうだ、ねぇ…



「君を殺したい」

…が、適当じゃないかな」








でも、

やはり苦しんでいる顔が一番可愛い。


















「…っそんなに、俺の事が嫌い、かよ」













…何を言っているんだい、あつや?







「そんなわけ無いよ。

たった一人、の弟だ…もの」










すると、あつやは



「…嘘だ」




精一杯の力を振り絞って
僕を鏡の中から睨み付ける。











「…そうか。


君には、理解できないんだね。」









この、少し歪んだ僕の愛情を。












「…理解できなくてもいいよ、あつや。






だって、

これはきっと僕だけにしか理解できない」









双子ならもしかしたら、


という淡い期待を寄せていたのだが、






やはりそれは僕だけだったようだ。








僕は少し寂しかったけれど、








もう、

そんなちっぽけな寂しさに浸る時間は、
僕達には残されていなかった。












…この対話も、そろそろ終わりにしなければ。
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