小説
□傷まないと愛せない
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「…っ痛…!」
悲鳴にも似た声が、
辺りに響き渡る。
「――…あぁ、
綺麗だよ、
影野…」
「 傷まないと愛せない 」
――ガリ、
ぷつつ、と浮かび上がる赤い線。
それと同時に、
苦痛のうめき声をあげる影野。
「…痛い?」
俺が静かに問うと、
もはや血でべたべたになった顔で、
影野はがくがくと頷いた。
その反応に満足した俺は、
影野の血がついた包丁を、
舌で舐めた。
――瞬間、
口いっぱいに広がる濃厚な鉄の味。
「…うん、美味い。
影野の血ってすごく濃厚だな」
しかし、
影野はそんな俺の言葉を
聞いていない様子で、
「…もう…やめ、てよ…土門」
と喘ぎながら言った。
その姿に、
俺は罪悪感を感じる。
…たまらず、
ぎゅ、
と、
俺は
力なく倒れている影野を
強く抱き締めると、
「こんな愛し方しか出来なくて、
ごめんな」
と、呟いた。
…その時、
影野がどんな顔をしていたのかは分からない。
ただ、
俺の背に添えられた手に、
少しだけ、
力が込められるのが分かった。
終