小説
□例えば僕が、死んだとして
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「…ね、太子。
例えば僕が、死んだとして
…貴方は悲しんでくれますか?」
「 例えば僕が、死んだとして 」
突然の質問に、太子は固まってしまった。
全くの想定外だったのだろう。
口をぽかんと開けてアホみたいな顔をしている。
「…なんて顔をしているんですか、太子。」
少し溜め息をついて僕は太子を見据える。
するとだんだん太子は泣きそうな顔になってきて、
「…だって、そんな……いきなり…」
と、うろたえた。
「…例えば、の話ですよ。
…で?どうなんです」
僕がなおも聞くと、
太子は間髪入れずに、
「そりゃ勿論悲しいに決まっているだろう!」
と答える。
…なんて馬鹿な答えなんだろう。
「…駄目ですよ、太子。
トップである貴方が、
こんな下っ端に情けをかけては…」
「…」
それきり、太子は黙ってしまった。
恐らく無い頭の中で葛藤しているのだろう。
僕はそんな姿を見て、
笑ってしまった。
「…っふ…、ぁははっ…!」
「…な、何がおかしいんだよアホ芋!
私はなぁ…!」
顔を真っ赤にして、
膨れっ面で怒る太子。
…そうやって怒る姿が、
何故だか、
愛しく見えた…
―――そんな、
何でもない、
平和なある日の事。
――…その後、僕は知った。
今まで僕たちが、
当たり前のようにそこにあると思っていた
「平和」というものは
「平和」でないときにこそ
とても大切に思えるんだってこと…
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