小説もどき

□how to die …2
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背中やら腕やら頭やら強かに打ち付けて呻く間もなく、埋もれた一角を大きな手が引きづり出した。

「終わりじゃねぇよな?」
「……つまんねぇ事、聞くなよ」

着物を掴むその手を刀の柄で叩き落とす。

その時、一角は自分を剣八の瞳の中に垣間見た。
深い緑に映る自分は笑っていた。まるで彼のように。この斬り合いと言うにも乱暴な殺し合いを、愉しんでいる。

剣八はわざわざ「村を襲うかもしれない」なんて理由をくれたが、それが無くても斑目一角はおそらく、此処に来ただろう。義理も大義も必要なく、更木剣八と戦うためだけに。
もとより死ぬつもりや敗けるつもりは微塵も無いが、悔いが残らないと断言出来る道は、こちらだと。


少しばかり時間が経ち、もうその差が歴然としている。
斬りつけても斬りつけても、一角の攻撃はかすりもせずに空だけを裂く。身体の大きさに似合わない剣八の動きに、息が乱れた。逆に剣八の刃は赤く染まっている。
一角の脇腹から赤がしぶき、彼がよろめいた。
それでも睨み上げる目の強さは変わらず、剣八は更に笑った。
「こんなに遊んだのは久しぶりだ。愉しかったぜ」

言われた瞬間、衝撃が深く腹を走り一気に足の力が抜けていった。呼吸をする機能が失われていくのが解る。
自分が倒れ込む地面には綺麗な程に鮮血が撒き散らされ、全部自分のだと信じられなかった。
遠くで弓親の声がする。現実が薄れていく。死ぬ、のだろうか

ここで
死んだら

あるいはとても幸せかもしれない


その時、ふと気配が遠ざかるのを感じた。
伏した一角から、離れる者。
その瞳が浮かんだ瞬間、肺に留まっていた空気を吐き出した。

・・・
「……――」

去ろうとした剣八の片足首を、血に濡れた手が掴んでいる。指が食い込む程強く。
少なからず、目を見開いた剣八が視線を落とした。
まるで停止しかける肺を無理矢理動かすように、激しく息を吸い吐く一角が顔を上げていた。

「…死んでねぇのか」

その言葉は奇しくも、初めて剣八が一角に声をかけた時のもの。
瞳が二つ、ぶつかり合う。

「――…っ」

一角が口を開きかけた。
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