小説もどき

□how to die …1
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「実はさっき数人喰ったばかりだしよ」

あぁ、俺をボコボコにした奴らかもしれない。ご愁傷さま。
ざまぁみろと思うべきか哀れに思うべきか、またはおかげで喰われず済んで感謝するべきか。複雑な心境だった。

とりあえず、一角は化け物に言葉を投げる。

「喰うなら喰うで、早くした方がいい。ここの村人は皆明日には死ぬぜ。」

俺を含めて。
目に入る血を擦りながら、軽く、言ってしまう。

「…なんでだ?」

当然の疑問。不思議そうに首を傾げる化け物。

明日、この村を横切って戦に行く兵士達がいるらしい。
それが意味するのは。つまり、男や道具・食糧を徴収されるという事。もし敵軍が遡ってきた場合、夜営地に利用されないため家という家…建物は燃やされてしまうという事。残された使えない女子供老人は逃げるしかない。この世ではのたれ死ぬしかないだろう。
村は消えると、
味方であるはずの軍の進路が決定したと、同時に決まったと言える。

ふざけた話だ。
だから、こんなふざけた理由で村を潰されバラバラになっていくくらいならば、
せめて一矢報いて皆共に死のうと、一致した。
向こうはおよそ五百に対して、こちらは四十。
初めから、先がある戦いではなかった。

先程一角を好き放題に殴っていった連中も、男以外は早々に村から立ち去るように、と一足早く知らせに来た者。鉢合わせてしまったのは運が悪かった。気が短い自分は案の定喧嘩になり、数に疲れ始めた所をやられたという事で。
一角にしてみれば、明日の結末を見せつけられた気分だった。今日の相手はせいぜい倒したのを含めて五十人程。
明日は、十倍が相手。

磨り潰されるように削り取られるように死んでいくのだろう。

「…くだらねぇ話だ」
「馬鹿なんだこの村のやつらは。」
「そう思うならやめりゃいい。付き合う必要はないはずだ」

尤もな言葉に、一角は笑う。小さくひっそりと。

「実は俺、捨て子なんだ。死にかけてたのを、この村に拾われて育ててもらった。恩がある。何も返すもん無いから…最期に付き合うくらい、するべきだと思う。一番強ぇのは俺だから」

一瞬、化け物の眼光が強くなった気がしたが、気がしただけだった。
何故こんな事を話しているのだろう。今まで、自分の生い立ちを話たりしたことはなかったのに。
通りすがりの、しかも化け物に。いやに、静かに聞いてくれるからだろうか。

「あの人達は…嫌いじゃない、から」
出来れば五百人くらい、俺が全員ぶっ殺せたらいいのに。

顔をしかめる化け物がもう一度、言う。

「やめちまえ、そんな面白くもねぇもん。死にたくねぇってまるわかりの顔しやがって」

違う、と一角は応えた。

「死にたくないんじゃない。少し死に方が気に食わねぇだけだ」
「ほぉ、どんな死に方がいいんだ?」
「それは…――」


その時、微かに風に乗って別の声が流れてきた。何を言っているかまではっきりしなくとも、誰か探していると解る。
おそらく、いつまでも戻らない自分を探しに来た弓親だ。

化け物が立ち上がった。
今更、とんでもない大男だと思う。

「行っちまうのか」
「馬鹿なハゲに呆れたんでな」
「ハゲてねぇ!!」

「名前はあるか」

背を向けて歩き始めていた足を止め、肩越しに見やる化け物。名前は在るのかとは、少し妙な言い方だと片隅で思う。

「斑目 一角。…あんたは」


「――更木 剣八」

ざあっ

風が吹き抜けた。
その風にさらわれたかの如く彼は姿を消す。

残った一角は、夢だったんじゃないかと疑いを早くも持ち始める。
まぁ、変だが悪くない夢だった。

――…明日の昼には。


月を見上げながら溜め息を吐いた。
早く弓親が見つけてくれないだろうか。
 
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