小説もどき

□雨の日に
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さっきから「黒崎、黒崎」と教師が呼んでいる。うるさいなと思いながら、呼ばれているってことはもしかして自分は今居眠りでもしているんじゃないかと気付き、無理矢理心地よさを払う。
愚痴を言われる種を与えちまったな。

しかし、目を開けて見た其処は学校ではなかった。整然と並んだクラスメイトも机も椅子も無く、呼んでいる声も教師ではない。
少し苛立ちを浮かべた弓親が横に立っていた。

そういえば定期報告に尸魂界に来ていたのだったか。挨拶で十一番隊に来るのはいつもの事。
「黒崎、起きた?頼みたい事があるんだけど」
「…なんかあんたの俺の呼び方、学校の教師連中に似てんだよな」
呼び方を変えてくれと暗に頼むが、とりあう様子はない。
「よく解らないしいい気はしないけど、君を下の名前で呼ぶつもりないよ」
すっぱり言われてしまった。一目は置くがそれだけだと。
「あ、そ…。で頼み事って何だよ」
「隊長と副隊長に傘を届けて欲しい。僕ら任務入っちゃったから」
「降ってんのか?」
「君が口開けて寝てる間に降り始めたよ」
確かに、窓を小さくずらすと、地面に溜まった水溜まりが波紋を作っている。大降りではないが小雨とも言い難い。
季節はもう秋。傘なしで雨に当たるのは少々危険だ。
一護は椅子から立ち上がり、腕を頭上に伸ばした。
「いいぜ。剣八はともかくやちるを濡らす訳にいかないし」
弓親が差し出した赤い番傘を二つ、受け取る。と、溜め息をついて弓親が呟いた。
「…副隊長が濡れる心配はあまり無いと思うけどね」
「あ?なんで」
「いいから早く行く!」
追い出されるように、一護は外に出た。
剣八とやちるは総隊長に呼び出しを食らったとかで。また何かやらかして説教を受けているとしたら、傘を届ける気を削がれそうだ。
「…寒」
隊舎から外に出ただけで空気が体温を吸い出していく。歩けば、跳ねた水滴が足袋に染み込んで、最早足先は冷えきってきていた。
ああ、やっぱり届けない訳にはいかないか。
濃厚な雨の匂いが鼻を掠める。蛙が鳴く声が歩に合わせて近づき遠ざかっていく。
剣八達がこの雨の中走ってくる暴挙に及ぶかもしれない可能性は無いと願うとして、あと半分程で二人と会える筈だ。
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