小説もどき

□how to die …2
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荒れ寺は、寺と表現するには荒れすぎているようだった。木材の残骸の山としか見えない。火事にでもあったのか、屋根は崩れ所々が墨に染まり、こんな中に化け物とはいえ何日か暮らせるだろうかと疑いたくなる。
一角と弓親がその様を見上げていると、瓦礫の合間からひょこりと色鮮やかな何かが顔を出したのを見つける。

「…がき?」

十に歳が届かないくらいのどうやら女の子。髪が花のよう桜色である以外は、普通に愛らしい子供だった。
拍子抜けした二人を、大きな瞳がじいっと見つめる。

「剣ちゃーんお客さんだよ!」
少女が出てきた瓦礫の中へ叫んだ。そのまま引っ込んでしまう。
剣ちゃん。
剣ちゃんって言ったぞ今。
もしかしなくても彼の事だろうけれど、反応がしづらい。

「…子持ち、なのかな。似てないけど」

弓親が呟いた。
俺にどう答えろっていうんだ。

しかし、ヌッと影から巨躯が現れたと同時にそんなことはどうでもよくなった。
空気が肌を刺すかのように、一瞬で研ぎ澄まされる。
一角はすかさず刀を引き抜いた。あの虐殺場で拾った物だった。村にあるなまくら刀よりましだろうと考えてのこと。

「待たせたなぁ!こっちの準備は出来たぜ」

至極嬉しそうに剣八も抜刀する。刃こぼれ村の刀より酷い状態だが、あれで少なくとも三百人は斬り殺しているのだ。

「強ぇんだろうな?苦労させたからには、それなりの見返りを期待してるぞ」

言い終わった途端、剣八は地を蹴っていた。
かなりの距離があった筈が気付けば目の前で白刃が光る。迷わず一角は己の刀をぶつけた。
鈍い音が響き、交差した刀同士が力の拮抗に震えた。


「へぇ、受けたか」

笑う鬼。
拮抗していた筈の二本の刀が己の方へあっさり倒れてくる。一角はそれを見るや斜めに刀を滑らせた。
勢いのまま剣八は切っ先を地面に埋める。
がら空きとなった後頭部に、人間ならば首骨が折れる蹴りを放った。が、蹴りを受けたのは剣八の手の平。足を引く前にわし掴まれてしまいぶん投げられた。重力に逆らいほぼ水平に一角は吹っ飛んだ。
大の男を鞠玉のように投げるとは馬鹿力にも程があるだろと、心中呟いたところで瓦礫の山に直撃する。
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