小説もどき

□how to die …1
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ごつん。
鈍い痛みが頭をつつく。どうやらどつかれたようで、一角は覚醒した。
散々やってくれた癖にまだ殴り足りなくて戻ってきたのか、暇な奴ら、と思いながら目を開く。
すると
二つの瞳とぶつかった。
刃のように鋭く光る、眼。全身の痛みなど一気に吹っ飛び、縫い付けられる。思考まで停止してしまうほど、その光に見入ってしまった。
腫れて視界が悪いが、その瞳は随分高い場所にあり、持ち主が男だと知る。草むらの真ん中で仰向けに横たわる一角を、夜空と月と森の一部を背に黒い影が覗き込んでいた。大きなそいつが声を発する。

「…死んでねぇのか」

低い腹に響く音。
と、呆然と唯見上げる一角の頭部をおもむろに蹴りつける。おそらくさっきもそうしたのだろう。

「ぃてえ!」

裸足でましだとしても痛いもんは痛い。

「起きろよ」

彼の反応をさらりと無視し、男は命令した。
ギラギラと光る眼が笑いを含む。

「起きれるなら生かす。出来ねぇなら…喰っちまうぞ」

喰う。
皮膚を裂き肉を抉り内臓を引き出し骨を噛み潰して、お前を喰うぞ。
はっきり、言い切った。己が人外の者と告げたのだ。
勿論、冗談や言葉のあやとも捉えられるが一角はそう思わなかった。男の気配が物語っている。
何もせずとも周囲を圧し、刺し殺す空気。
本物の妖。化け物なのだと。

こんなところでエライもんに会っちまった、と信じられなかったり関心したり心中大パニックなのに
何故か口が笑みを作る。
自棄になっているのもある。が、本人も理解できない疼く高揚感。
一角はこの化性に何かを嗅ぎ取っていた。
もしかしたら、化け物も同じだったのかもしれない。

今、食される訳にはいかない。
散々傷めつけられた身体をむち打ち、どうにか膝立つ所を見せて喰われるのは免除された。

何を思ったのか、崩れるように座り込んだ一角の隣に男も胡座をかく。

「ひでぇやられようだなぁ、弱くは見えねぇが、その有り様はなんだ?」
「うるせー…もうちょい丈夫な枝がありゃ全員相手できた。てめぇこそ、なんでこんな辺鄙な場所に化け物が来るんだよ。血の匂いにでも惹かれてきたのか?ここの村の奴ら喰うつもりか?」
「腹が減れば。今は気分じゃねぇ」

月にかかっていた薄い雲が晴れてきて、世界が浮かび上がる。やっとまともに男の顔を眺める事が可能となった。
森を渡る風が、長い黒髪を揺らし顔を縦に突っ切る傷痕を覗かせる。
厚い筋肉に覆われた身体はそれ自体が武器のようで、背中に背負う刀は必要ないかに見えた。
男は傷痕を歪ませ薄く笑った。狼を想像させる牙がちらと光る。
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