過去拍手

□人魚
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私はたゆとう人魚

狭い狭い水槽の中で

今日も息を潜めてひっそりと暮らすのです





「やぁ、今日も元気にしていたかい?」
まどろむ意識を無理矢理起こし水面下から上を見上げれば、そこにはいつものように研究員が此方を伺うようにして声を掛けてきた。
「さ、ご飯の時間だよ。しっかり食べてね」
そういって冷凍保存した海藻類を投げ込んでくる。
新鮮な海藻類でないとすぐ鱗がボロボロになっていくというのに、人間は人魚のことを全く理解していない。
その癖私を無理矢理飼おうとしている。
見世物にするために。

私の母は、私を身籠った身体でこの研究所に捕らわれた。
程なくして私が産まれ、物心つく前に母はいなくなっていた。
度々呼ばれる名は、今私の世話をしている研究員が付けたモノだ。
だからと言って懐くわけでもない。人魚は人一倍警戒心が強い生き物だから。

以前は食べずに逃げ回っていたが、最近は飢えが酷く著しく氷が付着した人工的な冷たさを纏う海藻さえ構わず食べるようになった。
そのせいか、虹色の艶を放っていた鱗は数枚剥がれ落ちピンと張っていた尾鰭はボロボロと形を失っていった。


「最近さ、上品さを失ったよね」
餌を求めて水面まで上がってきた私の首輪を引くと、そのまま両脇に腕を通され水槽の外にバシャリと出された。
バランスを失い、水浸しのタイルの上へ上半身を打ちつける。
掻くモノを失いビッチビッチと空振りするように撥ねる私のボロボロな尾鰭を、研究員は躊躇いもなくグニュリと掴んだ。
「ヒッ」
思わず上げた悲鳴で研究員の加虐心が掻き立てられたのか、艶を失った鱗を排除するかのように一枚一枚引っ込抜いていった。
「痛ッ、痛い…やめッ!」
懇願する私の濡れた髪の毛を掴むと、研究員のいきり立った性器を口に捻じ込んだ。
「むぐぅっ…うっぇ、んぐっ…」
「噛むんじゃねぇぞ…知ってるか?人魚の肉は永久の命の源だって有名なんだぜ」
暗に切り刻んで殺すという脅しに震えあがり、必死になって口の中の怒張したソレに奉仕した。


遥か高く上空にあるという天国よ
そして其処に住まうという神様よ

もう母に会いたいなんて願わない


どうか私を連れて逝って


2011.3.1移転

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