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□屑籠に放り投げた愛情
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「もう要らねぇよ、お前なんて」

我ながら酷い事を言ったなぁ俺も。

初めて自分を残酷な人間だと感じた。
付き合って一年の記念日にその恋人に向かってなんつー事言ってるんだか。

相手からプレゼントとして貰ったラブレターをぐしゃぐしゃに丸めたあと、部屋の隅にある屑籠に放り投げた。

いま、向かい合っている相手が淹れたコーヒーが入っているまま思い切りカップを床に叩きつけた。

ばりん、と音を立てて割れた白いカップの破片がフローリングに散らばる。少しだけ、入っていたコーヒーが足にかかった。

あ、ヤバいフローリングに傷ついたかな、と頭のどこか隅っこで呟いた。

「何、で昨日までは…」

「優しかったのにってか?」

そりゃそうだ。お前が嫌いになったのは昨日だから。

昨日まで確かに俺は目の前の高杉を愛していた。だから俺は今日の為のプレゼントを買いに、少し遠めの百貨店まで足をのばした。

プレゼントに選んだのはピアス。値段はまぁまぁ張ったがデザインが綺麗で、これなら喜んでくれるだろうと意気揚々に帰路に着こうとした。

「晋ちゃんっ今日は何処行くのぉ?」

「どうせラブホだろ」

「いぃっつもそーだよねぇ。いつものとこ?」






心臓が、凍った気がした。





あんなに深く愛していたのに、それが壊れるのはほんの一瞬だった。女と歩いている目的は、会話を聞けば明らかで。

どくどくと脈を打つ度に冷たい血液が身体中を巡るような気さえする。
もうきっと、高杉の事を愛する事何て出来ない。

考えれば考える程高杉への愛は薄れて、やがて憎しみへと変換されていく。

そして買ったピアスを、ドブに叩きつけるようにして沈めた。


だってもう、要らないだろう?


「当たりだよな、高杉」

憎しみといっても、一晩たてばただただ冷たい感情にまた変換された。

何も感じない、知らない誰かを見ているような気になる。

「もう俺はお前を愛せない」

「ひじか、た…」

「だから好きにしろよ。誰と付き合ってもいいし、何処に住んでもいい。あと出来れば…」

「出来れ、ば…?」


「死んでくれよ、高杉」

ここまで人の死を心の底から望んだ事は無い。それだけ深く高杉を愛していたんだろうか。

「お前の為に殺人犯なんて真っ平だ。だから事故にでもあって死んでくれ、」

「土かたっ、ぁ…!」

何でお前が泣くんだ。泣きたいのは俺だ。何故裏切られた方じゃなく裏切った方が泣いているんだ。
あのラブレターごと、お前もぐしゃぐしゃにして屑籠に入れてしまいたいくらい。

「いやだ、捨てないで…!」

「捨てたのはどっちだよ」

「あれはただのホントに遊びで…」

「別に愛していない奴の言い訳なんて聞くだけ無駄だ。それ以上喋んな」

「土、方…」

名前も呼ばれたくない。この関係をリセット出来ればいいのに。高杉の名前も知らないまま、平凡でいられれば良かった。

「お前しか愛せなかったのに」

「…っ」

「皮肉だな、今はお前しかここまで憎めない」

憎いだけじゃない。こいつを見ているともっと汚いドロドロとした感情が思考から、流れ出てくる。
「要らねぇよ、」

「い、や、…捨てないで、傍にいて…」

その涙すら汚れて見える。口からドロドロと流れ出てくる感情は、最早制御不能だった。





「頼むから死んでくれ、」











憎しみは愛情の裏返しですか?
いずれこの憎しみは、深い愛情に戻ってくれますか?




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