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□染み渡りて明々
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初め、というのはきっと存在していない。

銀時の狂気などきっと、今に始まった事では無いのだから。

「ねぇ、土方」

「う"、あ」

ゆっくりと自分の体温が下がっていくのを感じる。

どんよりと沈んだ灰色の雲から落ちてくる雨粒が体温を奪っていた。


自分の刀に刺される武士とはお笑いだな、とまるで検討違いの事を考える。

「俺を愛していいのは土方だけだけどさ、それだけじゃ足りない。」

「足り、な…」

「そ、足りない。だからさ、考えたワケ。俺を愛していいのは土方だけだったらさ、土方を愛していいのは俺だけでしょ?
土方だけズルいじゃん。ゴリにもサドにも、真選組の奴らみんなに愛されて、さ。」


いつもよりも濁り、狂気を孕んだ目で銀時は俺を見つめていた。


そして俺の太股に刺さっていた刀を抜きとると、今度は俺の脇腹に突き刺した。
「う"あぁあああ!!ぐ、あっ!!」

突然襲った激痛に呻かずには居られなかった。

何ヶ所かは痛みで麻痺している。

麻痺した部分からどくり、と何かがはじけたように血が雨水と一緒に流れていく。

「土方はさ、やっぱり"紅"が似合うよ。肌、白いから」

「はぁっ、は、」

荒い呼吸と焦点の合わない視界。
息を吸っても吸っても酸素が肺に行き渡らないようでとても苦しい。

「ねぇ、」

ずる、と脇腹から刀が抜かれる。
それと同時にどくんと血が溢れ出す。

「土方…」

雨粒よりも温かく、温度を持ったものがぽろぽろと落ちてきた。

温かい其れは狂気を孕んだ灼眼の瞳から零れ落ちている。

「何、で…」

余裕がない俺にはこの一言しか喋れなかった。
何でお前が泣いてるんだ馬鹿野郎。

ぽろぽろと零れる雫は頬や傷口へぽたぽたと落ちていく。

「いつになったら…」
"俺だけを愛してくれるんだよ…、"


銀時の狂気は所謂"アイジョウヒョウゲン"だった。

俺を"キズツケル"という行為は愛故なのだ。

「なぁ、土方…」

「いい加減、愛してくれよぉ…」


更に零れる雫はいつになったら止まるのだろうか。

死にそうな俺よりも死にそうな顔をして涙を零す銀時にそっと触れる。

「分かったか、ら…も、泣くなって…。」

「土方、」

「帰る、んだろ?万事、屋に」

もうきっとそこからは二度と出られないだろうけれど。

銀時にしか愛されないというのはこういう事だ。

「愛してるよ土方…。さ、もう帰ろうか、痛くしてごめんね」

銀時の謝罪の声を聞きながら俺は雨水に混じる自分の血を見つめていた。


涙に混じって俺の傷口に染み渡ったのはお前の狂気?それとも愛?


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