とおりゃんせ とおりゃんせ
此処は何処の細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちょっと通して下しゃんせ
御用の無い者通しゃせぬ
この仔の七つのお祝いに 御札を下げに 参ります
行きはよいよい 帰りは怖い
怖いながらも
とおりゃんせ とおりゃんせ
私は何処か暗い夜道を歩いておりました。
薄明るい灯火を手に持ち、片目に見える道を頼りに
不安定な足取りでふらふらと歩いておりました。
歩む目的や行き着く場所も良く分かりはしませんでしたが、それでも何故か歩き続けました。
視線を感じ、ふと、前を見ると銀の髪をした鬼が立ってこちらを見ておりました。
その銀色をした鬼は近寄ってきて私に問いました。
「何処から来た」 と。
私は答えました。
「分からぬ」 と。
銀色の鬼はまた私に問いました。
「何故此処に来た」 と。
私はまた答えました。
「分からぬ」 と。
私は本当に何もかも分からなかったので御座います。
まるで記憶だけがぽっかりと無くなってしまったように私の存在でさえ分からなくなっておりました。
ただ覚えているのはたったひとつの唄でした。
名も知らぬ、悲しげで美しい調べの唄でした。
私がその唄を唄いだすと、銀色の鬼は急にふっとその美しい紅の瞳を閉じたので御座います。
少々不思議に感じましたが、それでも唄い続けました。
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