神への祈り

□‡第六話‡
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僕達は数時間前と同じように走り続けた。
そして徐々に速度を落とし、止まった。

そこも、今まで、そして数時間に走ってきた場所とたいして変わらず白い街がただひたすらに続くばかりで、出口に向かう僕達が何故ここで止まったのか不思議だった。


もしかして、ここが出口?

僕の心の声が聞こえたかのように、そしてそれを肯定するかのように朱衣はゆっくりと僕の手を離した。


まさか本当に、
「ここが出口…?」

朱衣が小さく頷くのが見えた。
そして正面を向いたまま続けた。

「ここを真っ直ぐ進め
ただひたすら真っ直ぐだ」
言葉の意味が分からなくて朱衣を見ると、彼女も僕を見て、そしたら出口だ、と続けた。

言われるままに数歩歩き、ふと立ち止まる。
まだ彼女に伝えてない事がある気がする。


「朱衣」

正面の白い街を見つめたまま、小さく呟いた。
聞こえてないかもと思ったけど、僕のと同じくらい小さな声でなんだ、と返してきた。
僕は思わず振り向いて彼女に向き直った。

言いたい事がまとまらない。
そもそも僕は何を言いたいのだろう。


「僕は……僕は君が悪魔だなんて、信じられないよ」
彼女はまた小さく、うん、と言った。

「天使とか悪魔とか、夢じゃないかって思うんだ」

そうだねって呟いて、彼女は小さく笑った。
でもその笑顔は、どこか痛々しくて悲しげにも見えた。

僕はようやく自分の言葉の非礼に気付き、謝ろうと口を開くと、それより先に朱衣が話し始めた。

「海斗、あたしを助けてくれてありがとう」

そしてゆっくりと笑った。
今度の笑顔は優しくて、厳しい顔の朱衣とは違う何かがあった。


――これだ、僕の言いたかった言葉は。
ありがとう。
朱衣に伝えたい言葉、ただ感謝の気持ち。
ここで言わないと。


「朱衣あのね、僕の方こ」
「さあ時間だ」

ちょっ……ちょっとまだ僕が

「これを食べて」

そう言って朱衣は僕に飴玉を渡してきた。
情けないことに僕は言いたい事を一瞬忘れ、素直に飴玉を受け取った。
そしてその一瞬に浮かんだ疑問をぶつける前に彼女は答えた。

「これ食べると悪魔との接触痕を消せるの
たいして長く一緒にいた訳じゃないけど、万が一接触痕が残ってたら天使に狙われる」

そして再び時間だと告げた。
その説明はなんだかよくわからないけど、言われるままに飴玉を口に含み、振り向いて今から進むべき道を睨み付けた。
口の中でりんごの甘酸っぱさが広がる。
あ、これおいしい。


二、三歩歩いてふと思い出し、振り向く。
いけない、忘れるところだった。

「朱衣!ありがとう!」

朱衣がニッと笑って片手を挙げるのを確認し、また前を向いて歩きだす。

――飴玉だけじゃないよ、ここであった全ての事へのありがとうだよ――

こう伝えるべきだったのかもしれないけど、きっと朱衣はわかってくれる。
何故かそう確信して、僕は真っ直ぐ歩き続けた。


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