虚像の騎士
□宴・後編
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―――――それではお楽しみください」
わぁっと声が上がった
ルーキシスが目を開けると食事が運び込まれていた
どうやらクラウスのスピーチも終わっていたらしい
ルーキシスはやれやれと体を伸ばした
周りには運ばれてきた食べ物を談笑しながらつまむ人々
そして中央には踊りを希望する男女が集まりはじめている
ルーキシスは空腹のふりをして近くのテーブルに近づいた
なんとしてもダンスだけは避けたい
しかし
「ルーキシス王子…でいらっしゃいますよね?
よろしければわたくしの娘のガーベラのお相手していただけませんか?」
振り返ると赤毛の女性が微笑みながらルーキシスを見ていた
その隣には同じ赤毛の娘が恥ずかしそうに顔を赤らめて立っていた
赤毛によくはえるおとなしめの色のドレスで品がよさそうな顔をしている
焔のような髪を肩の下までたらし、後ろで緩く結っている
よろしい訳がない
ルーキシスはそう言ってこの場を早く立ち去りたかったが、今断ることはできない
引きつりそうな顔を必死に抑えて微笑み、ようやく告げた
「私などでよろしければ喜んで」
その言葉を聞いたとたん、娘の顔に満面の笑みが浮かんだ
一曲だけだ
一曲踊ったらすぐ逃げよう
そう固く決め、ルーキシスはガーベラの手をとって中央に向かった
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