神への祈り

□‡第六話‡
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結局僕は何も答えられなくて、朱衣もたいして期待していなかったらしくうやむやに終わった。
探していたケータイも鞄の中から発見し、無事でよかったって心底ほっとした。

とりあえず時間が知りたいとケータイを開くといつもの待ち受け画面が表示されなかった。
ゲームがバグったみたいに記号がやたら並んでた。
無事じゃないよ。

僕の顔が青くなったのに気付いたのか、朱衣はケータイをちらりと見て平然と言い放った。

「壊れてないよ
この街の中では人間の機械――パソコンやらケータイが使えなくなるの
この街出たら普通に戻る」

それを聞いて安堵すると共に家が恋しくなってきた。
この街は現実っぽいけど現実らしさが無いから、夢の中みたいで別の世界って感覚だった。
家に帰る事なんて忘れてた。
“この街出たら”って言葉でふと思い出す。
僕の街はこの街じゃない。

ちょうどお腹も空いてきたし、そろそろ帰ろう。
僕まだ下校途中だよ。

「今何時かな?
そろそろ帰らないと」

その言葉を聞いて朱衣は小さな透明の球体を取り出した。
中に蒼い光が彗星みたいに回ってる。
なんだこれ?
朱衣がその球体を軽く振ると、光は黄色、赤へと色を変えた。
そしてそれを見るなり答えた。

「9時半」

えっ!?
9時半だって!?

「9時半!?
まだ明るいじゃん!」

びしっと音がしそうなくらい力強く窓の外を指差す。

「時差があるからね」

さも当たり前のように言うが、僕の頭はますます混乱した。
訳わかんないよ。
ここ日本だろ?

「……帰らないと」

とりあえず今9時半なら大変だ。
きっと真っ暗だ。

「なら送るよ
出口知らんだろ」

朱衣はもう玄関に向かいながら言った。
確かに僕は迷い込んだから出口は知らない。
入口も知らないけど。

あわてて鞄を引っ掴み、玄関へと駆ける。
玄関の扉を開けると、先程と何も変わらない白い街と青い空が広がっていた。
今9時とは思えない。
見れば見る程不思議な街だと実感する。

朱衣が僕の手を掴んできた。
あぁ、もしかして。

朱衣は歩き始め、徐々にスピードをあげて行く。

……やっぱり、また走るのか。

僕達はまた、走り始めた。

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