Chain of the Dark

□悪夢は始まった
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「自ら環境保護団体を名乗るテロリスト、リライトが昨夜、ハイア研究所を襲撃しました。死者負傷者は出ていませんが、研究所は壊滅、復旧の見通しはたっていません。テロリストは依然逃走中で……」

テレビでアナウンサーが喋っている。

「ハイア研究所って言ったら、かなり近いじゃない…昨日騒ぎはこのせいね…」
テレビを見ながら、母さんは呟いた。

「ごちそうさん!」
そう言うと俺はテーブルの上にある自分が使った食器を片付けた。

「早食いは体に毒よ」
母さんは急いで支度している俺を目で追いながら言った。
「はいはい!分かってます!じぁ行ってきます!!」
「気をつけてね」
リュックを片方の肩に掛けて俺は勢い良く玄関を飛び出した。

外に出ると、朝の日差しが眩しく、かなり暖かかった。


しばらく歩くと「おはよう」と、一人の男が声をかけて来た。
「なんだ、テイラーか」
「なんだとは何だ、ノーデンス」
テイラーという男も言い返した。
背は少し低く、天然パーマなのかパーマをかけたのか分からない髪型、少し大きめの瞳が特徴だった。
「まず最初に声かけられたのが野郎じゃなぁ〜俺にゃ春は来ないみたいだ…」ノーデンスは溜め息混じりに言った。
「さらりと酷いことを言うな君は…」
とテイラーは苦笑した。

ふと、テイラーはノーデンスを見てみる。
身長も低いわけではないし、綺麗な茶色の髪と黒い瞳で、改めて見れば、なかなか凛々しい少年である。
「まぁ、欠点言うならメチャクチャ地味なんだよな」
テイラーが呟いた。
「なんか言ったか?」
「いいや、なんでも」
テイラーはあから様に口笛を吹いてごまかした。

「あ、そういやさ…」
と、いつも通りの会話が始まる。
二人は学校の同級生で18歳、どこにでもいる普通の学生だ。
いつも、「彼女が欲しい」と言う内容で始まり、結局、別の話題にいつの間にかすり変わっている。
そんな他愛ない話をしながら、二人は学校に向かった。








誰も近寄らないようなスラム街。
6人組の男女が身を隠すように、走っていた。
「追っ手は?」
一人の若い女が言った。
「分からないけど、今はいないみたいだ。」
無精髭を生やした青年が答えた。


彼らは環境保護団体、通称リライト。汚染された環境を野放しにし、生態系すら変える政府に反旗を翻す者たちだ。
最初のうちは、署名運動や抗議活動だったが、政府からの必要以上の圧力や、弾圧による非人道的な行動により、今では武力による戦いを余儀なくされている。
政府から言わせれば「反逆者」である。
今も政府の実態を掴もうし、乗り込んだ研究所からの追っ手を降り払おうと逃げている最中である。

「皆頑張れ!アジトまでの辛抱だ!」
この組織のリーダーの無精髭を生やした短髪の青年、フォンは皆を励ました。
リーダーと言う立場からか、年齢よりも少し老けて見える。鼻筋が通り、瞳の色は茶色だった。

しばらく走り、スラム街を抜けて街中に出た時である。
「はい!そこまで〜」
と手を叩き、フォン達の前に長身の男が立ち塞がった。
青い近代的な鎧を身に纏って、長い黒髪を後ろで縛っている。髪とは対照的な青い瞳が特徴的だった。
「ここで会ったが百年目ってやつ?いやぁ〜キミらの相手引き受けてから退屈しないわぁ〜」
ふざけた調子で喋りながらも、武装した部下達に指示し、フォン達を取り囲ませた。
「抜け目ないな。ディファイ准将」
フォンはメンバーを庇いながら、言い返した。
「そりゃ仕事ですので〜」
「ねぇ!見逃してくれない!?一生のお願い!!」
リライトのメンバーの一人、レインという少女は上目使いでディファイに話かけた。
栗色のショートヘアーで、瞳は黒く、目が人形のように大きい。その外見のせいか、年齢より若く見える。
「かぁ〜相変わらず可愛いなぁ〜レインちゃんは〜」
ディファイはニヤニヤしながら言った。
「でも、無理。元からリライトのメンバーなら良かったけど、レインちゃんは裏切り者じゃん?」
「ケチ…」愛らしい表情を一変させてレインが言った。
「う〜ん。ごめんねぇ。じぁ!同行してもらえるかな?」
ディファイは手を上げて、隊員達に銃を構えさせた。

「それは…断らせてもらおう。」
刹那、フォンが政府の隊員の一人を蹴り飛ばした。
「逃げるぞ!」
一瞬出来た隙を無駄にはしまいとメンバーに指示を出した瞬間である。
投敵ナイフがリライトのメンバーの一人の頭に突き刺さった。
「逃げちゃダメよ。まったく悪い子達ね」
向こうのほうから女性が一人歩いて来た。
長く、たっぷりとした赤い髪、厚い唇。長いまつ毛のせいで瞳の色が分かりづらく、一見すれば夜の蝶のような外見だ。赤い鎧も纏っているものの露出度が高く、とても戦闘に来たとは思えない。
「遅いぞ〜エリーザ」
半ば呆れたようにディファイが言った。
「まぁ気にしないの。とりあえず間に合ったんだし」
ディファイの表情を気にする様子もなく、エリーザは軽く言葉を返した。

ふとレインを見ると、苦虫を噛んだような嫌な顔をしている。
「あ〜来ちゃった。変態女…」
「聞こえたわよ。腹黒女」
レインの呟きに、エリーザは素早く反応した。
「まぁまぁ」ディファイとフォンがすかさず二人をなだめた。

エリーザは軽く舌打ちをした後、フォンに近付いた。
「やっぱり、イイ男よね〜あんた。」
「あいにく年上は好みじゃない。」
フォンは表情を変えずに言った。
「あら、そうなの?残念〜」
笑いを堪えているレインを見てエリーザは再び舌打ちをした。
「で、まぁ投降する気は無いわけね?」
ディファイが咳払いをしてフォンに聞いた。
「ああ。」フォンは即答する。
「じゃ、ここで始末しかないね〜」
そう言った瞬間。
リライトのメンバーが、レインとフォンを残し全員が血を吹き出し倒れた。
ディファイの手には血がべっとりついた細身の剣が握られている。
「雑魚は片付いたね〜」
ディファイはにこやかに言った。
「おい!お前ら!!」
一瞬の出来事に流石のフォンも動揺を隠せずにいた。
「まぁ俺が本気出せばこんな感じ?」ディファイはまったく調子を崩さない。
レインもしばらく固まっていたが、すぐに我に帰り、持っていたライフルのセイフティを外し、近くにいたエリーザに銃口を向けた。
「何?やる気満々?」
エリーザは鼻で笑うと、腰にさしていた二刀流の短刀を取り出した。
フォンもメリケンサックを取り出して、指にはめた。


しばらくの沈黙。



沈黙を破ったのはフォンだった。ディファイに向かって行き、途中で襲って来る隊員達を次々に鈍い音と共に殴り倒した。
あっというまに、その場はフォンとディファイ。レインとエリーザの四人になっていた。
「フェアに行こうぜ。」
フォンがディファイをからかった。
「ありゃりゃ〜案外って言うか、あんたメチャクチャ強いじゃん!!ホントにタダの人間?」
流石のディファイを苦笑しながら言った。
「どうだかね。自分で確かめな」
フォンはディファイに殴りかかって行った。


レインとエリーザも壮絶な戦いを繰り広げていた。
レインはタイミング良く銃を撃ち、エリーザも弾を躱しながら切り付ける隙を狙っていた。


しばらく戦っていると、政府側の増援がこちらに向かって銃弾を放ちながら走って来た。
増援に気付き、ディファイとエリーザは即座に隅に避けた。
一斉に放たれた銃弾を避けるためフォンとレインも物陰に隠れた。

隠れながら「部悪くない?逃げよ。」とレインが提案した。
二人は撤退を余儀なくされ弾を避けながら逃げ始めた。

「あ、逃げた。どうする?」
しばらく考えた後
「確か…この先に学校あったよな?そこに追い込め。」
ディファイはサインを出し、隊員達に指示した。
「学校?いいの?そんな所に?」エリーザは不思議そうに聞いた。
「テロリストは罪も無い子供達を人質を取るんだよ。汚いね〜」
これまでに無い不敵な笑みでディファイは答えた。
「お〜怖い」エリーザも理由を理解した。


必死にフォンとレインは逃げ続けていた。向かう方向をアジトと真逆にさせられた事に不安を抱きながらも……
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