Chain of the Dark
□悪夢は始まった
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ライトの光だけが頼りの暗い空間。
広いがジメジメとした湿気を感じる。
そんな空間を歩く一人の男、マッドがいた。
見た目は40代。ボサボサとした黒い髪に、それとは対照的な色白な肌。少し小さめの瞳の下には、くまがあり、メガネをかけ、猫背で、大き過ぎるサイズの白衣を羽織っている。全体的にあまり健康的とは言えない外見だった。
ながらく鉄の床を歩いた後にマッドは立ち止まった。目の前には巨大な扉が佇み、照明が反射している。
扉には様々な装飾が施され、黒く鉛の様な色で物々しい雰囲気を漂わせていた。
マッドは扉に触れると高笑いをし、喋り始めた。
「素晴らしい…素晴らしいよ!!闇を!悪夢を!!混沌もたらす《魔界の門》!!!」
男の少し高め声は暗い空間に響いてエコーしていた。
「悪意、憎悪、浅ましき欲望…これこそが人間のあるべき姿!!混沌の果てにこそ、人類は真の開放を受ける!!!」
しばらく黙った後、マッドは後ろを振り向いた。
「そうは思わんかね?……グレイ?」
マッドの目線の先には一人の若い男が立っていた。
長めの黒髪で、顔の堀は深く、身長が高い。
ジッパーや鉄のボタンが所々についた黒いロングコートを着て、派手なベルトをした黒い皮のズボンに、ブーツを穿いている。
何ともゴツいファッションを着こなしたその姿は、周りの暗さに溶け込んでいる様に見えた。
「相変わらず、オカルトな世界にどっぷり浸かってるな、マッド。」
グレイと呼ばれた男はそう言った。
「オカルトか…確かに…だが、真実に近いと私は思うがな?」
平然とした態度でマッドは言い返した。
「所詮人間など欲望の塊。いや、欲望こそが人間と言っても良い…」
「どうでもいいよ、んなこと。別にお前の演説聞きに来たわけじゃない。」
グレイも言い返す。
「そうだろうな。では…何をしに?私の元に戻りたくなったか?」
「死んでもゴメンだね。ただ…」
「ただ?」
グレイは腰の後ろに手を回した。
「もう、いい加減終わらせようと思ってな…」そう言うと、装飾が施された拳銃を取り出し、マッドがいる方向に構えた。
「なるほど。それで…?私を殺すか?ようやく再会出来たというのに…」
「お前は他人の血を流し過ぎた。無論、俺もだ。だからこそ…」
「そうか…だがな、私はまだ死にたくないんだよ…」
そう言うと、マッドは指で音を鳴らした。
すると、どこからか特殊な装備をした戦闘員達が出て来た。
一斉にグレイを取り囲み、銃を構える。
マッドは満足げに笑っている。
だが、次の瞬間、何発かの銃声が聞こえ、グレイを取り囲んでいた戦闘員達が次々に倒れ始めた。
「レベル1で俺を殺れると思ったか?」
そう言ってグレイは余裕の表情を浮かべている。彼の左手には、もう一つ拳銃が握られていた。だが右手に持っている物のと違い一般的な銃だった。
「なるほど。やはり君は…」
血を流しながら倒れる戦闘員を見回しながらマッドは言った。
「私の最高傑作にして…」
マッドの表情が険しくなる。
「最大の汚点だよ!!」
「それは奇遇だな。俺にとってもあんたが人生最大の汚点だよ。」
グレイは鼻で笑いながら言い返した。
「やはり君には消えてもらうほかないようだ…」
すると、突然マッドは何かを思い出したような表情を浮かべ、薄ら笑いを浮かべた。
「せめて最期に君に良い物を見せてやろう。冥土の土産にすると良い。」
マッドは再び指を鳴らした。
すると突然、グレイの周りに倒れていた戦闘員達の死体が蠢き始めた。
「今度は何をするつもりだ?」
グレイがマッドを睨む。
「元々、D塩基とは彼らの物。それを代価に彼らをこちら側に招待しただけだ。」
蠢いていた戦闘員達は動きを止る。
と、同時に壊れていく物を逆再生したように戦闘員達の近くで何かの形が形成されていく。
完全に形成が終り、出来上がったのは醜く醜悪な見た目の生物だった。
人のような手足がついているが、尻尾があり爪や牙がある。もちろん顔は人に程遠く、醜い。
次々に形成されていく生物達がグレイを取り囲み始める。
「まさか…こいつらは……」
グレイも動揺を隠しきれていない。
「その通り。本物の……」
マッドはメガネのズレを直しながら言った。
「本物の《悪魔》だよ。ただ残念なことに下級悪魔だかね。」
「貴様ぁ!!!」
グレイが今までにない程の声量で叫んだ。
悪魔達は次々にグレイに襲いかかり始める。
グレイは拳銃を強く握り悪魔達と戦闘を始めた。
グレイの放つ弾の銃声、悪魔達の鳴き声。そして、マッドの高笑いの声が暗い空間に谺していた。