銀と金のマテリア【短編集】
□ある夏の夢
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誰かの手を引いて、ずっと走っていた。
今が昼なのか夜なのか、よく分からない。
ただ出口を求めて、暗い洞窟の中をひたすら走っていた。
やっと…わずかな光が見えた…かと思った瞬間、突然外に放り出された。
その弾みで、繋いだ手が引き離されてしまう。
別々に着地したが、そんなに遠く離された訳ではなかった。
すぐに駆け寄って、今まで一緒に走ってきた人物を抱き起こす。
見たこともない、金髪の少年だった。
「おい、大丈夫か?」
頬を叩いたり、体を揺すったりするが、目を覚ます気配はなかった。
それから初めて、辺りを見渡す。
水の音は聞こえていたが、危険は感じていなかった。
しかし、その水の色に、思わず目を見開いた。
赤、だった。
どこまでも赤い海。
水平線に接する空までもが、赤く染まって見えた。
後ろを振り返ると、そこには崖がそびえ立っていた。
オレたちが出て来たと思われる洞窟の穴が、遥か上の方に小さく見える。
ここから、気を失ったままの少年を担いで崖を上るのは、いくらオレでも不可能だ。
…後には戻れないということか。
オレは、視線をゆっくりと赤い海へ戻した…………。
………。
急に目が覚めた。
珍しく、呼吸が荒くなっている。
体中から、嫌な汗がすっと引くのを感じる。
…変な夢を見たもんだ。
のろのろと、時計に目を向ける。
少し早いが、そろそろ起きてもいい時間だ。
ゆっくりと、体を起こした。