白黒羽扇


□諸司馬クエスト
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05. 召喚!


「これは、あの元悪魔が身に付けていた腕輪ですね」

決着がつき、元悪魔が消え去った瞬間に、消えることなく残った唯一の装備品。
光沢はほとんど失われているが何かの金属でできており、よく見れば精巧な紋様が刻み込まれている。

「刻まれている文字は、何かの呪文でしょうか…?」

腕輪を見つめながらぽつりと呟く孔明。あの粗暴な元悪魔の持ち物にしては意外な、繊細なつくりの装備品。
どれ…と仲達が手を伸ばした時、腕輪から眩い光がほとばしった。
あまりの強烈な光に、孔明と仲達は咄嗟に両手で目を覆い隠した。光がおさまると、そこには一人の美しい女性が立っていた。

「あなた方が、彼を解放して下さったのですね」

少し疲労の色が見えるものの、彼女はふわりと優しい笑みを浮かべた。

「誰だ……」
「私は、名乗るほどの者ではありません。天使と…悪魔よ」
「貴女は、天使…それも古代の天使ですね?」

仲達の問いをひらりとかわした謎の女性は、孔明の言葉に一瞬身をこわばらせた。

「昔は、今よりも厳格に外界との交わりは禁じられていたはず。それが、なぜ悪魔と行動を共にしていたのですか?」
「それは…」

少し迷ってから、彼女は静かに語り始めた。

「彼は、私の大切な人でした」



実は彼女は、天使の中でもそれなりに実力をもつ一家の出身だった。
しかし、能力にも恵まれた彼女は、どうしても外界への興味を断ち切れず、ある日こっそりと抜け出してしまう。

そこで出会ったのが、あの元悪魔だった。当時は、彼も若く才能と野望に満ち溢れた悪魔だった。
一緒になることは叶わぬと分かっていたが、共に時間を過ごすうち、二人はどんどん惹かれあっていった。

それからも彼女は時々天使界を抜け出し、彼とこっそり会っていた。しかし、束の間の幸せな逢瀬は、彼女の父親に知られてしまったことによりあっけなく壊されてしまった。

現在も昔も変わらず、天使と悪魔は相容れない存在。恋愛などもってのほかだった。

大事な娘が悪魔にたぶらかされたと激昂した父親は彼に決闘を申し込み、受けて立った彼は、激闘の末に敗北してしまった。決闘で敗れた悪魔は、例にもれず自我を失い、元悪魔として彷徨うことになった。
嘆き悲しんだ彼女は、天使界に戻ることを頑なに拒み、以前彼に贈った腕輪に自らの精神を預け、彼と行動を共にすることにした。



「私にもっと力があれば…。本当は彼を浄化したかったのですが、せいぜい彼の暴走を抑えることしかできませんでした」

時々声を詰まらせながらも、自分と元悪魔のことをなんとか話し終え、彼女は力なくうなだれた。

「悲嘆することはありません。彼は浄化されました。それは貴女のおかげです。貴女の抑制がなければ、私たちはあっけなく倒されていたでしょう」
「本当ですか?」
「ええ。はい、これをお返しします」

孔明は、手に持っていた腕輪を彼女に手渡した。

「そう…。そうね。彼は浄化された。あ、この腕輪…」

彼女は腕輪を両手でそっと包み込み、感触を久し振りに確かめた。少し目を閉じてからゆっくりと目を開け、腕輪を再び孔明に持たせた。

「この腕輪に、邪悪な力を封印する力を込めました。あなた方は、修行のためにこの地へ降り立ったのでしょう?これから先、この腕輪が役立つことがあるかもしれません」
「貴女はこれからどうするのですか?」
「私は、すでに存在してはいけない身。そろそろお別れの時間です」

どこか吹っ切れたような笑顔を浮かべ、彼女の身体は徐々に透明になっていく。

「あなた方は、どうか、幸せになって下さい。これからの道中、ご無事であらせられますよう」

「消えてしまったな」

今まで、孔明と古代の天使の話を静かに聞いていた仲達が、ぽつりと言った。

「最後の言葉が気になるが…」
「何か気になりましたか?」
「いや……別に」

『あなた方は、どうか、幸せになって下さい』
(…いや、いくらなんでも考えすぎだ。深い意味はない。だいたい、こいつと……考えたくもないわ!)

あんな話を聞かされた直後だ。嫌でも深読みしてしまう。
眉をひそめて首を振る仲達を、孔明は面白そうに眺めていた。

☆孔明は、封印の腕輪を手に入れた!


【05.おわり】

…06に続く…
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