白黒羽扇


□寝物語 〜孔明と仲達の場合〜
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「司馬懿殿、もう寝ましたか?」

「……」

「……仲達」

「…何だ」

「おや、起きていたのですか」

「どさくさに紛れて字で呼びおって…気付かないとでも思ったか」

「貴方が寝ている時か、事の最中でもないと、その名前で呼べませんから…」

「ふん、馬鹿めが…寝るぞ」

「まぁ、待って下さい。一つだけ、聞かせてもらえませんか?」

「何をだ」

「貴方の初恋は、いつでしたか?」

「くだらん。今わざわざ話すようなことでもなかろう」

「今だからこそ、お聞きしたいと思いまして」

「……。お前は、どうだったのだ?人に聞く時は、自分から話すものだろう」

「私ですか?私は…八つになるかならないかという位で。
遠い親戚の家に遊びに行った時、親戚の知り合いの方が訪ねてこられたのです。その方は、一人のお子さんを連れていました。
見たところ、私と同じ年頃のようでした。さらさらの漆黒の髪が美しく、印象的でした」

「…その子が、お前の初恋の相手なのか」

「ええ。その子は、紹介されてもほとんど話さず、俯いたままでした。
その後、親同士で話すことがあるから、お前たちだけで遊んでおいでと言われて、私はその子を連れて川原へ行きました。
川原でも、その子はほとんど話さず、私ばかりが話していました。もう昔のことなので、話の内容も、その子の数少ない返事も覚えていませんが、年齢の割りに思慮深い子なのだという印象をうけました」

「…」

「(おや?狸寝入りですか?自分から聞いておきながら…。まぁ、続けてみましょう。)その子、私は女の子とばかり思っていたのですが、後で男の子だと聞かされて驚きましたよ。綺麗な子でした。確か、名前は……」

「… ……」

「(やはり反応してますね。分かりやすいですね。)…何といいましたか…思い出せません」

「……」

「(本当は覚えていますよ。しっかりと。)…おや、寝てしまわれましたか。ふふ、私の分は話しましたから、次は司馬懿ですね。また明日の晩にでも」

「……」

「おやすみなさい、ちゅうたつどの」

「……」

「……」

「……」

「……」















「……馬鹿めが………こ…めい」
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