白黒羽扇


□黒が白に"染まる"とき・1
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■黒が白に"染まる"とき■










奴と初めて直接顔を合わせたのは、昨年の秋、残暑もとうに落ち着き、冬に向けて肌寒くなりかけた頃だった。

私が魏に仕官してまだ間もない頃、初めての地に慣れるため、仕事の合間に一人城下町を散策することがあった。
商店、民家…どれをとっても、自分が今まで住んでいた田舎とは違うと感じながら、改めて自分の新しい立場を思い知らされた。



(この前は、ここを右へ曲がったが、今日は左へ行ってみるとするか。)



前回までに歩いたことのない道を選びながら、特にあてもなく歩いていた。


このような散策の時には、服装も目立たないものを選び、町民に近い格好をする。
そうすれば、道行く人々は、私が誰であるか気付くこともなく、そのまますれ違ってゆく。
窮屈な礼をされることも、こちらから礼を返すこともない。この散策は、町の巡察と同時に息抜きにもなっていた。


…のだが。
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