銀と金のマテリア【短編集】
□夏の夜の悪魔(11000hit)
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コツ、コツ……。
控えめに、車の窓ガラスを叩く音が聞こえた。ようやくクラウドが来たらしい。
閉じていた目をゆっくり開けて、ドアロックを解除すると、実に無駄のない動きで黄色い塊が滑り込んできた。
ここはミッドガル郊外。待ち合わせ時間より少し前にオレが車を停め、クラウドはそこへ少し遅れてやって来る…オレたちが車で出かける時はたいてい、このような形をとっている。
「うっわ〜、涼しい!」
暑さにさほど強くないクラウドのために、車内のエアコンを十分にきかせておいて正解だったようだ。
「外はまだ暑いのか?」
「うん。もう夕方なのに、昼間と変わらないくらい」
ミッドガルは魔晄エネルギーのおかげで生活が豊かになったものの、その代償として緑が少なく、熱がこもりやすい。ミッドガル中心部の人々は、真夏の昼間は、オンの日もオフの日も、空調のきいた建物の中で過ごすのが普通だ。プレートの上では、道路の上を歩いて行き来する者はほとんどいない。
その暑い暑い昼を乗り切った後、クラウドと気分転換にドライブに出かける約束をしていた。
ミッドガルの明かりが遠ざかり、小さくなっていく。今日も一日、魔晄都市をギラギラと照りつけていた太陽がゆっくりと沈み、闇が辺りを覆い始める。しばらくの後に、セフィロスが運転する車のヘッドライトだけが唯一の頼みとなった。夜の森の道のドライブ。今までに何度も来たことがあるせいか、少々怖がりなクラウドでも、さすがに慣れたねと笑っている。
エアコンを止め、車の窓を全開にする。まだやや熱っぽいが緑のにおいのする空気をいっぱいに取り込みながら、森の中をひた走る。