銀と金のマテリア【短編集】
□虹の向こうに (S side)
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お前の笑顔は、なんて眩しいんだ……
初めてお前を見た時、まず目についたのは、その頭。
面白いはね方をした、まるでチョコボのような髪型。
色や長さは違うが、ツンツン髪型なら毎日のように見ていたというのに。
だが、決定的に違ったのは、金色の太陽の光をいっぱいに受けて、それはきらきらと輝き、眩しいくらいだったこと。
思わず見入ってしまっていた自分に気付き、苦笑いしてその場を離れた。
初めてお前に会った時。
実は、あまり乗り気ではなかったのだが。
どこかのお節介な爆発黒髪が連れてきたお前を見た瞬間、僅かにこの心臓が反応したのをよく覚えている。
お前の瞳をまっすぐ見たのも、この時が初めてだった。
お前は気の毒なくらいがちがちになっていて、
ああ、やっぱりかと、
こちらもウンザリしかけたのだが、曇り一つないその瞳に、いつの間にか魅せられてしまったようだ。
この瞳には、自分はどのように映っているのだろう?
そんなことを確かめたかったのだろうか、
次の瞬間口から出た言葉は、自分でも信じられないものだった。
……すると、お前は真っ赤になって頷きながら……
初めて、はにかんだような笑顔を見せてくれたな。
本当は、怖かったのだ。
今まで「英雄」としてしか見ていなかったのが、
ありのままのオレを知ったら、その瞳は曇ってしまうのだろうか?
もう一度会おうなどと口走ったことを後悔した。
こんな子供相手に不安になるなど……
……自分らしくもない。
…………「自分らしい」?
お前と一緒に過ごすうちに、今までのリズムがどんどん崩れ始めた。
爆発頭の相棒に、変わったなと言われることが多くなった。
確かに、そう思う。自分でも。
周りも、自分の中も、全てが無彩色だったのが、お前のお陰で一気に色が付けられていった。
感情というものひとつで、気分が良くも悪くもなる。以前は知らなかった感覚だ。
それに比例して、お前もいろいろな表情を見せてくれるようになった。
中でも一番印象に残っているのが、お前の笑顔。
何をしていたのか、はっきりとは思い出せないが、突然お前がこちらをじっと見つめてきて……
さっき、笑ったよね。……もう一度、笑って?
……笑った?オレが?
どうやら、自分でも気付かないうちに顔が綻んでいたらしい。
動揺しているオレを見て、お前は笑顔を見せた。
最高の、笑顔。
思わず抱きしめると、胸の中に不思議な気持ちがふんわりと広がっていった。
腕の中の小さく柔らかな感触が、
心にあった、さまざまなトゲを、みるみるうちに小さく丸くする。
……これが、「癒される」ということなのだろうか?
……では、オレは「癒されたかった」のだろうか……?
自分の中の一部の細胞が活性化し、自分が乗っ取られた後も、僅かに意識はあった。
その意識が、あたたかい記憶を呼び起こし、結果、お前を呼び寄せていたのだろうか?
だが、この忌々しい細胞は、お前をも利用しようとした。
同時に、いつの間にかお前にも組み込まれてしまった同じ細胞が、自分の中のこの細胞に反応して、お前を操ろうとしている。
もう、以前のように穏やかな時間を共有することは出来ないのか?
ならば、自分は消滅するしかあるまい。
が、せめてとどめはお前に………
オレは、もうお前に微笑みかけることなど出来ない。
お前には、迷惑をかけすぎた。
不意に足場が崩れ始めた。
オレはもうどうなってもいいが……お前だけは。
咄嗟に腕が伸び、お前の手を掴んだ。
お前が助かったかどうか確かめる間もなく手は離れ、オレは自分が落下しているのを感じていた。
久し振りに触れたお前の手は、前と変わらずやや小ぶりでやわらかくて…
あたたかかった。