王が見たのは短い夢
□抜け駆けは禁止。
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「……G。そろそろオレは行くぞ」
ヴァリアーの、ベルの特訓をフランと共にしていたGは(フランの場合は単純にベルをおちょくりたいだけとも言うが)、T世の言葉に頷いて送りだそうとした。
の、だが。
「そーいえば、T世って毎日毎日どこに行ってるんですかー?」
興味をそそられたらしいフランが、ベルの相手を中断して問う、と。
「綱吉に会って喋ってるだけだが……なにか問題があるか?」
だが、その問いの答えに返事を返したのはフランではなく。
「……あ゙?」
先程快く送りだそうとしていたGだった。
しかも、ガンでも飛ばしているかのように声が低い。
「おいジョットてめえ今なんつった。綱吉に会いに行く……?何抜け駆けしてんだてめえは」
「……言ってなかったか?」
「知ってたらあんな軽く送り出すわけねえだろ。俺はてっきり、雲と霧の様子でも見に行くんだと思ってたんだが?」
声そのものは普通の大きさなのだがなぜだろう、Gが口を開く度に部屋の温度が下がっているような気がする。
「それはすまなかった。では改めて行って……「待て」……どうした?」
「雨月達を呼ぶ。ジョット、怒られろ」
ここで初めて、T世の顔が死人のごとく真っ青になった。
……いや、まぁすでに死んでるんだが。
そして。
「なにも聞いてござらんが……。いったいどういうつもりでござるか、ジョット」
「いや……その……」
周りには、6人の守護者と、興味津々でその7人を見守るベルとフラン、レヴィ、ルッスーリア、スクアーロの、修行に携わっていた人間達。
あのいつも自信に満ち溢れ、強いT世はどこに行ったのか、と動向を見ていると。
「一応聞いておくでござるが、何故黙っていたのでござるか。てっきり、最初に会いに行ったキリだと思っていたでござるが」
笑顔で訊ねる雨月のその笑顔が怖いのはもはやお約束。
「いや……あまり大勢で押しかけても綱吉の負担になるだけだろう?オレ1人が行けばいい話かな……と思ったんだが」
「それは私達に会いに行くことを秘密にする理由にはなりませんよね?」
デイモンがとてもいい笑顔でそう告げると、T世が呟いて。
「……言ったらこうなるだろうが」
「何か言ったかい」
聞こえるか聞こえないか、といったくらいの声のサイズで言ったT世に対してアラウディがすかさず厳しい声を入れる。
「……なんでもない」
「まあ、あまり追及するのもあれでござるしな。……そのかわりジョット、御主の記憶能力を使うでござる」
「記憶能力?」
ベルが訝しげに問いかけると。
「ジョットの持つ特殊能力みたいなものですよ。彼は自分の記憶の伝えたい部分を、誰かに見せる事が出来るんです」
デイモンが教える横で、雨月の話は続いていく。
「会いに行っていないのなら、ともかく、会いに行っているのなら話は別でござる。大勢で押しかけるのはできなくとも、我々の声を綱吉に届けることは出来るでござろう?」
「む……そうだが……」
僅かに渋るT世に、雨月が一言。
「何か問題でもござるか?」
オプション・(黒)笑顔。
「いや、まさか」
T世が即答してしまったのも仕方ないだろう。
けれど、結果的にこれが、綱吉を闇から救い出すきっかけとなったのだ。
皆の、心からの思いが。