カエル畑DEつかまえて

□雪のあと
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 寮に帰り着いた時には、靴下は完全にびしょ濡れだった。水が滴らないよう気をつけながら脱いでもまだ、足の裏に水分がたっぷり残っている。
「足の裏がふやけたようです」
 紺色のハイソックスを脱いだ風羽は、爪先立ちで玄関に上がった。
「大丈夫ですか広瀬くん」
 一緒に下校した広瀬はといえば、靴下どころかスラックスの膝下までびしょ濡れだった。その上、唇が紫色である。
「気にしないで、先に風呂場使いなよ。後のメンバーが帰って来たら込み合うし」
「なるほど。ではお言葉に甘えて」
 風羽は片手に靴下をぶら下げ、爪先で跳ねるようにして一直線に風呂場に向かった。月蛙寮は一見古民家風だが、給湯設備はしっかりしているので有り難い。
 風羽は早速風呂桶の栓をしてコックを捻った。ところがなかなかお湯が出てこない。それだけ気温が低いということだ。
 風羽はしばし思案すると、足先だけを洗って拭い、玄関へ戻った。
「広瀬くん、よろしければ一緒にお風呂に入りませんか?」
「……………………え?」
 ようやく靴下を足からひっぺがしたにも関わらず、広瀬は凍りついた。
「お湯の出が悪いので、一度で済ませたいのです」
「いや、こんな日だし、節約より素直に沸かし返そうよ」
「私を待つ間に広瀬くんが風邪をひいては困ります。広瀬くんがお先に使われますか?」
「それは駄目」
「ならば、ささ、参りましょう」
 躊躇ない風羽に、広瀬は再び抵抗を試みたが、次の一言に陥落した。
「広瀬くん。早くしないと後の皆さんが帰ってきてしまいますよ?」
 

   * * * 


「……入るって、足湯……」
「手早く温まるにはこれが一番です」
 二人は並んで風呂桶の淵にこしかけていた。風羽はスカートだが、広瀬はトランクス姿である。スラックスは下洗いして洗濯機だ。
「どうしました広瀬くん」
「ほっといて。気にしない君に落ち込んでるところだから」
 広瀬は明後日を向いている。普段の洗濯物で見慣れてるとはいえ、好きな子の前でパンイチはない。
「逆だったら、君だって恥ずかしいでしょ」
「……なるほど」
 風羽が目を伏せて赤くなる。一瞬、広瀬は溜飲を下げたが、代償は大きかった。
 想像したのだ、逆転した場合の光景を。  ドサドサドサッ!と屋根から雪の塊が滑り落ちた。
「雪、また強くなってきましたね」
 玄関の開く音がしたのはその時だ。
「ただいまーぁ」
 響いてきた法月の声に、ぱっと立ち上がったのは風羽だった。
「法月先輩と交代してきます」
 タオルを引っつかんで風呂場を出る風羽を見送り、広瀬はこっそりしたり顔をした。
「ほらね」


 君もたまには、困るほどドキドキすればいいんだ。







 

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