ソラ*ユメ
□フェイスレス・ヒーロー
1ページ/6ページ
特徴のない顔が、鏡の向こうからじっと俺を見ている。
「お前は誰だ」
同じ顔で、同じ言葉で、問いが返ってくる。お前は誰だ、お前は誰だ、お前は―――…。
この方法は、とある国で使われていた拷問で、鏡を見ながらずっと言わされていると次第に『自分』が『誰』なのかわからなくなって自我が崩壊するらしい。
俺の場合は逆だ。
「お前は誰だ」
御剣暁。では御剣暁とは『誰』だ。
御剣暁とは、守永の継承者だ。異能の狩人。血塗られた手をした清掃人。死神。
確認するのは、揺らがない為だ。
自分の手が汚れている事を確認する。夢など見ないように、この手に何百と刻まれた感覚を思い出す。
でないと、壊してしまいそうで。
俺は目を閉じた。
特徴のない顔が消え、瞼の裏には明るい光が浮かんだ。
つぶらな瞳。小造りな鼻。少し開いた蕾みたいな唇。桜色の頬。柔らかな癖っ毛。白い首筋。華奢な肩。細い手足。小さなてのひら。
「私の知ってる暁兄は、優しいひとだよ」
君は俺の本当の顔を知らない。
本当の俺を知らない君の言葉を、どうして信じられるだろう。本当の俺を知れば、きっと君は逃げていくから。
――だから、嘘だけでいい。
フェイスレス・ヒーロー