ソラ*ユメ

□フェイスレス・ヒーロー
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 特徴のない顔が、鏡の向こうからじっと俺を見ている。

「お前は誰だ」

 同じ顔で、同じ言葉で、問いが返ってくる。お前は誰だ、お前は誰だ、お前は―――…。
 この方法は、とある国で使われていた拷問で、鏡を見ながらずっと言わされていると次第に『自分』が『誰』なのかわからなくなって自我が崩壊するらしい。
 俺の場合は逆だ。

「お前は誰だ」

 御剣暁。では御剣暁とは『誰』だ。
 御剣暁とは、守永の継承者だ。異能の狩人。血塗られた手をした清掃人。死神。
 確認するのは、揺らがない為だ。
 自分の手が汚れている事を確認する。夢など見ないように、この手に何百と刻まれた感覚を思い出す。




 でないと、壊してしまいそうで。



 俺は目を閉じた。
 特徴のない顔が消え、瞼の裏には明るい光が浮かんだ。
 つぶらな瞳。小造りな鼻。少し開いた蕾みたいな唇。桜色の頬。柔らかな癖っ毛。白い首筋。華奢な肩。細い手足。小さなてのひら。


「私の知ってる暁兄は、優しいひとだよ」


 君は俺の本当の顔を知らない。
 本当の俺を知らない君の言葉を、どうして信じられるだろう。本当の俺を知れば、きっと君は逃げていくから。



 ――だから、嘘だけでいい。




フェイスレス・ヒーロー

 








 
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