ロック受話A

□古
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一目見たときから虜になっていた。
「エドガー=フィガロだ」
「フィガロ・・・?フィガロ城の、・・・・・王様?」
お前と初めて交わした言葉を、今でも覚えている。
驚きと羨望の眼差しで、俺を見つめる瞳。
一瞬で心を奪われた。
「エドガー、よろしくな」
差し出された手を握り返す。
「こちらこそ」
これから先の繋がりを暗示する契り。
本気でお前を欲しいと思った。


ロックはいつしか、俺の部屋に来るのが当たり前になっていた。
まあ俺がそういう風に仕向けたんだけど。
リターナー側からの報告は、大抵自室で伝えてもらっていた。
城の者達の耳に入ってはいけないという、とってつけた口実があったからね。
しかしロックは警戒心が強い。
絶対、仕事以外の誘いには乗ってこない。
触れようとすると逃げる。
そんなに俺は信用されていないのかと落ち込んだりもした。
でも実際はそうではなかった。


一度だけ、ロックの寝顔を見たことがある。
いつも通り、ロックを自室で待機させていたときのこと。
予定外に会議が長引いて、部屋に戻るのが遅くなってしまった。
「ロック、遅れてすまない」
自室に入ると、まず謝罪の言葉をかける。
いつもなら「おせーよ馬鹿」とか「王様はお忙しそうですね」など、ロックの憎まれ口が返ってくる。
だが今日は、その返事がない。

「ロック?」
帰ってしまったのかと不安になる。
上着を脱ぎながら部屋に入り進むと、ソファでうたた寝しているロックが目に飛び込んできた。
余程待ちくたびれてしまったのだろう。
俺が近付いても、起きる気配がない。
幸せそうな寝顔。
「可愛い・・・」
俺は完全に見とれてしまっていた。

銀髪に触れてみると、サラリとした心地良さが指先をくすぐる。
それでもロックは起きない。
すーすーと穏やかに寝息をたてているだけ。
このまま襲ってしまいたい・・・。
俺の中に、悪戯心が芽生える。

指先でそっと唇をなぞり、静かに口付けた。
柔らかなその感触は、俺を惑わせる。
「・・・ん」
ロックが小さく身じろいで、声を洩らした。
起きてしまったのかと少々焦ったが、ただの寝言のようだ。
そんな些細な仕草に、ますます抑制がきかなくなる。
俺はさらに深く口付けて、舌を入れ込んだ。
「ん・・・、・・・っ」
溶けてしまいそうなほどの悩ましさ。
甘すぎる唇が、本能を駆り立てる。

ロックが僅かに顔を揺らしたところで、俺は唇を離した。
「・・・、・・・ん」
うっすらと、ロックの瞼が開かれる。
ようやく起きたらしい。
「お目覚めかな?」
「ん・・・、あれ?・・・エドガー?」
ロックは眠そうな目をこすりながら、寝ぼけた声を出す。
キスされていたのは知らないみたい。

「気持ち良さそうに寝てたね」
「え、あ・・・、・・・え!?」
目の前に迫った俺の顔と、髪に触れる手に、ロックが一気に目を覚ます。
「ご、ごめん・・・!・・・、俺っ・・・」
顔を真っ赤にしながら、ソファから飛び起きる。
不覚といわんばかりの表情。
「なんならゆっくりしていけばいい、俺も今日の仕事は片付いたし」
それとなく誘ってみる。
しかし、ロックは気まずそうに視線を落とした。
「・・・ごめん、・・・もう、帰るよ」
頑なに俺を拒む。

ロックをそうさせてしまう理由が知りたい。
ちょっと苛めてみようかな。
「俺に寝顔見られて、そんなに嫌だった?」
腕をソファに押し付けて、ロックの顔を覗き込む。
「・・・っ、馬鹿!そんなんじゃねえよ!」
俺の腕を振り解こうともがく。
そこまで抵抗することないじゃん。
「エドガー、離せ・・・」
怒ってるけど、その中にほのかな恥じらいが窺えた。

ああそっか。
ロックは俺のことが好きなんだ。
至極簡単な答え。
なんで俺、今まで気付かなかったんだろう。

「離せってば・・・」
本当に困っているロックが可愛くて、俺は手を離してやる。
「帰る前に、報告だけは伝えてくれないか?」
「あ・・・」
思いっきり忘れてたな。
まあ俺のせいなんだろうけど。

「じゃあ、また・・・」
ロックが部屋を出て行く。
この刹那、たまらなく寂しさに襲われる。
離れたくない。
もっと一緒にいたい。
それはロックも同じ気持ちだったんだって、今日初めて知った。


ロックの気持ちを確信してからも、そのことはあえて口にしなかった。
だって、焦らされてるロックって、すっごいそそられるんだもん。
俺のことが好きでたまらないくせに、いつもつれない素振り。
だから俺も、表面上だけは平静を装ってロックに接する。
それとなんとなくんだけど、ロックは何か、わだかまりのようなものを抱えているみたいだった。


それからだいぶ時が経って、ロックに想いを告げられた。
溢れすぎた気持ちを止められず、ロックは泣きながら俺を好きだと言った。
もう俺ってば舞い上がりまくって、その日のうちにやっちゃったんだよね。
ロックは初めてのことだったらしく、かなり戸惑いながら身を委ねてきた。
必死に俺にしがみついてくる腕が、それはもう可愛くて可愛くて。


二度目のセックスでも、やっぱりロックは困惑気味だった。
つらそうにシーツを握り締めて、俺の愛撫に耐えていた。
「やだ、・・・や、やっ!エド、ガ・・・!」
後ろを弄られて、ロックが涙声で俺を呼ぶ。
「いやじゃないでしょ?」
そこを弄られることに、まだ抵抗があるみたい。
でも前は勃ってるから、決して苦しいわけじゃないんだよね。
「あっ、・・・あんっ!あ、あ、だめっ・・・」
ロックはそのうち快感に酔って、甘く鳴きだす。
「可愛い・・・」
もう羞恥なんて飛んじゃうくらい。


この頃のロックって、心も身体も純真で、ほんとに初々しかったなあ。
俺に抱かれるごとに、どんどんエッチな身体になっていっちゃったけど。
心だって、随分成長したと思う。
でも意地っ張りなところは変わらない。
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