ロック受話A

□宴
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うっすらと目を開けると、高い天井が視界に入った。
軽い眩暈。
意識が定まらない。
俺、何してたんだっけ?
随分長いこと、眠っていた気がする。
頭が痛い。
必死に思考を働かせるが、頭痛が酷くて思い出せない。
フラフラと、だるい身体を起こす。
俺は大きなベッドに寝かされていた。
広い部屋を見回すと、趣味の悪そうな調度品の数々。
扉はふたつ。
やけに暗いと思ったら、窓が見当たらない。
ここ、どこだ?
見たことない場所。
なんで俺、こんなとこにいるんだろう。

不意に、遠くから足音が聞こえる。
誰かがこちらに近付いてきているようだ。
二人・・・、いや、三人。
その音が部屋の前で止まると、静かに扉が開いた。
突然差し込んで来る外の光が眩しくて、思わず額に手をかざす。
「お目覚めですか?」
何度か聞いたことがある、高慢そうな声音。
ケフカが二人の兵を引き連れて、部屋に入ってきた。
「丸一日、眠っていましたね」
そんなに・・・。
ていうか、ここ、帝国かよ。
「なに、俺・・・なんで・・・?」
聞きたいことが色々あったのに、思うように言葉が出てこない。
兵がテーブルに食事を並べる。
「おなかはすいてませんか?とにかく食事をどうぞ」
なんで俺が敵の施しなんか受けなきゃなんねえんだよ。
ハラは・・・、減ってるけど。
俺が疑わしそうにテーブルの上を見ると、ケフカは気付いたように料理をひとつまみして口に入れた。
「毒なんて入ってませんよ 殺すなら、もっと手っ取り早く殺してます」


あ・・・、思い出した。
昨日・・・っていうより、一日中寝てたんだから一昨日か。
パブでだいぶ飲んだ後、ふらふらになりながら宿に帰ったんだっけ。
その途中、何者かに襲われて、そこから全く記憶がない。
まさか帝国の仕業だったとはね。
サウスフィガロから、わざわざ俺をここまで運んだのかよ。
ご苦労なこった。

「俺をどうするつもりだ」
気分が安定してくると、奴らを睨みつけながら問い質す。
「食べなさい」
ケフカは俺の質問には答えず、テーブルの上の料理を勧める。
そしてゆったりと、ソファに腰を下ろした。
俺はここから逃げることだけを考えていた。
窓がないなら、さっきケフカ達が入ってきた扉から脱出するしかなさそうだ。
もうひとつの扉は、たぶん洗面室かなんかだろう。
「餓死されては困るんですよ」
なに言ってんの、こいつ。
餓死なんてするかよ。
その前に、こんなとこからおさらばだ。
「ここから逃げようだなんて、思わない方がいいですよ」
俺の考えを見透かしたように、ケフカがつまらなそうに続ける。
「帝国の力は、お前も知っているだろう?」
確かに俺ひとりでは、到底太刀打ちできない。
だからそれを避ける方法で、逃げ道を探さなきゃ。

「全く、お前は強情だな」
料理に手をつけない俺に焦れて、ケフカが苛立ったように吐き捨てた。
俺は相変わらず無視を決め込む。
ケフカがソファから立ち上がると、ゆっくりこっちに近付いて来た。
「私にそんな態度をとるなんて・・・、大切な恋人がどうなっても知らないですよ?」
ベッドに手をついて、不敵に俺に笑いかける。
「・・・なんだよ、それ」
脅しに決まってる。
同盟国には手を出せないはずだ。
ケフカが思い出したように視線を泳がせ、低く声を洩らす。
「フィガロがドマ城の二の舞になる事だけは、避けた方がいいんじゃないですか?」
「・・・・・」
実際こいつは、あの惨劇を生んだ張本人だ。
ケフカなら、本気でやりかねない。
自分の顔が強張っていくのがわかる。
そんな俺を見て、ケフカが満足そうにふっと息を吐いた。
「嘘ですよ、またガストラ皇帝に叱られます」
ムカつくぐらいケロッとした顔で、ケフカが俺から離れる。
できるなら殺してやりたい。

「エドガーは本当に気に食わないやつだ」
忌々しそうに、ケフカが呟く。
「あの自信に満ち溢れた表情、吐き気さえ覚える」
ただのひがみじゃねーか。
てめーが持ってないもんを、エドガーは全部持ってるってだけだろ。
「やつの高飛車な鼻を、へし折ってやりたい」
憎しみに駆られるように、声を荒げる。
さっきから聞いてれば、被害妄想もいいとこだ。
「俺、関係ねーじゃん」
ケフカが俺の声に遮られ、さっきまでの憤りを鎮めたようだ。
そして自分を落ち着かせると、こちらに向き直る。
「私が直接やつに手を下すより、もっと楽しい方法を見つけてしまったのですよ」
俺を見下しながら、ニヤリと下ひた笑みを浮かべた。

ケフカが軽く手を上げて合図をすると、二人の兵士が己の装備を外す。
「なに・・・、ケフカ・・・なにする気だ」
兵たちは装備を外すと、今度は衣服に手をかける。
なんとなくは状況が読めてきた。
でも認めたくない。
この変態野郎は、自分のしもべを使って俺を貶めようとしている。
ケフカが楽しそうに俺の顎を掴んだ。
「お前を壊してしまう方が、あの王様にとって耐え難い屈辱を与えられると思いませんか?」
恐ろしく綺麗な顔立ちが、俺を捉える。
俺は邪険にケフカの手から顔を振りほどいた。
精一杯の怒気を奮い立たせ、奴を睨みつける。
「絶対てめーなんかに、屈しないからな・・・」
自分の声が震えているのがわかる。
見せ掛けだけの強がりが、こんなにも虚しく思えるなんて。

「ロック、さあ存分に可愛がってもらいなさい」
衣服を全て脱いだ兵が、ベッドに這い上がってくる。
俺は無意識に腰が引けていた。
「やめろ・・・俺に触るな!」
抗う俺の腕を、一人の兵が簡単に掴まえる。
もう一人は暴れる足を押さえ、ズボンに手をかけた。
いやだ!こんな奴らにやられたくない!
「丁重に扱えよ 恐怖を刷り込ませたら、全てが台無しになってしまうからな」
ケフカが兵に命じる。
俺は身体の自由を奪われ、弱々しくケフカに視線を送ることしかできなかった。
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