書庫1

□光の中
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朝の光が射し込んで、部屋はほの白い。その光の色は、まだ生まれて間もない朝のものだ。左近は少し前に目が覚めて、朝の訪れを知った。そして隣の恋人を起こしてしまわないように、横目で様子をうかがう。

―無防備な顔しちゃって。

左近の愛しい恋人…三成は、まだぐっすりと眠っている。左近はそっと身体を動かして三成に向かい合い、上半身を起こして頬づえをつくと、無防備な三成の横顔を見つめた。

―寝顔まで綺麗だ。

左近の主・三成は、若くして天下の豊臣を担う重臣で、普段は冷徹な印象を相手に与えるほど、冴えて落ち着き払った男だ。若く美しい容姿の冷たい男…そして頑固なまでに真っ直ぐで、真面目一徹で…とかく、三成は人に『近づきにくい』と思わせる男だ。だが今、左近の目の前の三成には、そんな印象は全く感じられない。むしろ年より幼くすら見えた。

―人は知らない、治部少輔の顔…ですか。

左近のは優しく微笑んだ。

「う…ん…」

真上を向いて寝ていた三成が、左近の方を向くように寝返りをうった。頭のすわりが悪いのか、寝心地が悪そうに何度も頭を動かしている。
それを見て、左近は自分の腕を出してやった。左近の腕を枕にして、三成は心地よさそうに寝息をたてる。その様子に、左近は思わず三成を抱きしめて口付けしたい衝動にかられた。

―いかん。

左近は必死に自制する。

―左近といる時くらい、ゆっくりして欲しいですからね。

三成は毎日、多忙だ。たいして身体が丈夫でもないのに、睡眠を削ってまで執務をこなす時がある。そんな三成が、いつも左近は心配だ。だから、自分といる時くらいは肩の力を抜いて、のんびりして欲しいと思う。

―好きですよ、殿。

左近が心の中でそう思った時、三成が動いて左近に身体を寄せてくっつき、

「左近…」

と囁いた。左近の着物の胸元を、三成が握る。左近は三成が目覚めたのかと思って顔をのぞき込むと、三成は寝息をたてていた。

―殿…。

眠りながらも自分を呼び、すりよる三成に、左近はたまらなくなって唇を寄せた。三成の額に、軽く口付けをする。

「ん…」

眠りながら、三成が微笑んだ。左近は三成の髪の匂いをかぐ。それは、花のようなよい香りがした。

「左近…」

また三成の声がして、左近が顔を離してみると、今度は三成が目を開けていた。

「お目覚めですか?」

「うん。」

「起こしてしまいましたね…すみません。」

「いや…。」

三成が左近に身体を寄せたまま、言う。

「夢を見ていた…左近の夢を。」

「俺のですか?それは光栄ですね。」

どんな夢です?と左近が尋ねると、三成は少し恥ずかしそうに口を開いた。

「左近の事を、ずっと見ている夢だ…いけないと思っても、目で追うのをやめられなくて…」

「殿…」

左近が笑って言った。

「それ本当の事でしょう?気づいてましたよ。」

「え…」

驚いたように三成が左近を見る。

「あんなにジッと見つめて…気づかない訳ないでしょう。」

「…気づきながら無視したのか?酷いな、左近は…。」

「すみません。」

すねた顔をする三成を、左近が両腕でしっかりと抱きしめ、つぶやいた。

「すごく嬉しかったですがね…これで、左近も色々と悩んだんですよ。」

「悩む…何をだ?」

「そりゃ、主君に手を出していいのかとか…ね。」

「そんな事…」

三成が左近の顔をのぞき込んで言う。

「そんな事、悩まなくてもいいのに…」

そして、細く白い腕を左近の広い背中に回し、力を込めた。その三成を、左近もしっかりと包む。

「好きですよ、殿。大好きです。」

「…俺もだ、左近。」

主従は優しく口付けを交した。

「さぁ、殿。まだ時間は早いですから…もう一眠りして下さい。」

「うん。」

三成が左近の胸元に顔を寄せ、

「ねぇ、左近。腕枕して…?」

子どものようにねだった。その無邪気な表情からは、憎らしいほどに冴えた才覚を発揮する豊臣重臣の姿は想像できない。笑いながら左近が腕を出してやると、三成は嬉しそうに頭を乗せた。

「左近の腕枕、すごく好き…安心できて…」

「左近の全ては、殿のものですよ。腕枕など、いつでも。」

「うん…。」

早くも三成は寝息を立て始めている。そんな三成を微笑みながら見守っていた左近も、いつしか心地よい眠りに落ちていった。


主従を、朝の穏やかな光が包んでいる。





 

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