書庫1
□夜と朝のあいだに
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「やっぱり、新しいベッド買いますか。」
左近が三成に言った。
「うーん…」
三成が曖昧に答える。二人は今、左近のベッドに一緒に寝ている。
「乗り気じゃないね…?」
「別に…そういう訳じゃないけど…。」
そう言うものの、三成は明らかに反対のようだ。
左近のベッドは、セミダブルだ。立派なベッドだが、いくら三成が華奢でも、ここに男二人は少々窮屈である。大柄な左近は勿論のこと、細身の三成でも、大胆に寝返りをうてば、落ちてしまいかねない。
「三成だって、狭いでしょ?」
「…でも、新しいの買ったらこのベッド、どうするの?まだ新しいでしょ?」
三成が渋った。
「理由はそれ?」
左近が尋ねると、三成は顔をそむけて『そうだよっ』と言った。
―こりゃ、別の理由があるね。
左近はピンとくる。そして、思う。
―ちゃんと、言って欲しいもんだ。
新しいベッドだから勿体ない…と言う三成に、
「このベッドはお客用にでもすればいい。ゲスト用のベッドがなかったしね。」
と左近が言った。三成は不満そうな顔をしてそっぽを向いている。
「ゲスト用にすれば勿体なくないでしょ。ね?どう?」
左近はどんどん話を進めていく。
「…他に理由がなければ、左近は新しいベッドを買いますよ。」
三成は黙ったままだ。
「今度の休みにでも、一緒に家具屋に行きますか。」
いいですね?と左近が三成の顔をのぞき込んだ。すると、三成は目に涙を浮かべていた。
「三成…理由があるなら言ってごらん。」
左近が言うと、そっぽを向いていた三成がこちらを向き、左近と向かい合った。少しうつ向き加減で、話しずらそうに時折チラチラと左近を伺っている。そんな三成が、左近にはたまらなく可憐に見えた。
「どうして新しいベッドはイヤなの?」
左近は再び問う。
「…だって…から。」
「え?」
「だから…」
「三成、聞こえない。」
左近は追求をゆるめない。
「もう…左近のいじわる…!」
『本当は分かってるんでしょ…?』と、三成は遂に涙をこぼした。ああ、泣かせてしまった…と左近は少し反省する。
「ごめん、三成…」
左近が三成の背中に手を回し、謝った。
「でも、ちゃんと教えて欲しいんだよ。」
三成は涙をこぼし、目をパチパチさせている。長い睫毛に、涙が光った。少し口をつぐんでいたが、三成がやがて小さな声で言う。
「だって…狭い方が左近とくっつけるから…」
三成は恥ずかしそうにして、ますます下を向いてしまった。
「三成…」
三成の可愛い理由に、左近は『あぁ、もう本当にこの人にはかなわない…』と思った。
「三成、ちゃんと教えてくれてありがとう。…三成が今のままがいいなら、もちろんそうしよう。俺だって、三成とくっつける方が、何かと都合がいい。」
左近が笑い、三成の顔を上に向かせると、優しく額にキスをした。三成は頬を膨らませて『もう、左近の変態!』と、左近の頬をペチンと叩く。だが、すぐに左近の胸にすりよって、その華奢な腕を、左近の背中に回した。
「ねぇ、左近。ぎゅーってして?」
左近はゆっくりと三成を抱きしめる。三成が嬉しそうに笑った。まだ、朝は来ない。
夜と朝の間に…。
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