書庫1

□夜と朝のあいだに
1ページ/1ページ


「やっぱり、新しいベッド買いますか。」

左近が三成に言った。

「うーん…」

三成が曖昧に答える。二人は今、左近のベッドに一緒に寝ている。

「乗り気じゃないね…?」

「別に…そういう訳じゃないけど…。」

そう言うものの、三成は明らかに反対のようだ。


左近のベッドは、セミダブルだ。立派なベッドだが、いくら三成が華奢でも、ここに男二人は少々窮屈である。大柄な左近は勿論のこと、細身の三成でも、大胆に寝返りをうてば、落ちてしまいかねない。

「三成だって、狭いでしょ?」

「…でも、新しいの買ったらこのベッド、どうするの?まだ新しいでしょ?」

三成が渋った。

「理由はそれ?」

左近が尋ねると、三成は顔をそむけて『そうだよっ』と言った。

―こりゃ、別の理由があるね。

左近はピンとくる。そして、思う。

―ちゃんと、言って欲しいもんだ。

新しいベッドだから勿体ない…と言う三成に、

「このベッドはお客用にでもすればいい。ゲスト用のベッドがなかったしね。」

と左近が言った。三成は不満そうな顔をしてそっぽを向いている。

「ゲスト用にすれば勿体なくないでしょ。ね?どう?」

左近はどんどん話を進めていく。

「…他に理由がなければ、左近は新しいベッドを買いますよ。」

三成は黙ったままだ。

「今度の休みにでも、一緒に家具屋に行きますか。」

いいですね?と左近が三成の顔をのぞき込んだ。すると、三成は目に涙を浮かべていた。

「三成…理由があるなら言ってごらん。」

左近が言うと、そっぽを向いていた三成がこちらを向き、左近と向かい合った。少しうつ向き加減で、話しずらそうに時折チラチラと左近を伺っている。そんな三成が、左近にはたまらなく可憐に見えた。

「どうして新しいベッドはイヤなの?」

左近は再び問う。

「…だって…から。」

「え?」

「だから…」

「三成、聞こえない。」

左近は追求をゆるめない。

「もう…左近のいじわる…!」

『本当は分かってるんでしょ…?』と、三成は遂に涙をこぼした。ああ、泣かせてしまった…と左近は少し反省する。

「ごめん、三成…」

左近が三成の背中に手を回し、謝った。

「でも、ちゃんと教えて欲しいんだよ。」

三成は涙をこぼし、目をパチパチさせている。長い睫毛に、涙が光った。少し口をつぐんでいたが、三成がやがて小さな声で言う。

「だって…狭い方が左近とくっつけるから…」

三成は恥ずかしそうにして、ますます下を向いてしまった。

「三成…」

三成の可愛い理由に、左近は『あぁ、もう本当にこの人にはかなわない…』と思った。

「三成、ちゃんと教えてくれてありがとう。…三成が今のままがいいなら、もちろんそうしよう。俺だって、三成とくっつける方が、何かと都合がいい。」

左近が笑い、三成の顔を上に向かせると、優しく額にキスをした。三成は頬を膨らませて『もう、左近の変態!』と、左近の頬をペチンと叩く。だが、すぐに左近の胸にすりよって、その華奢な腕を、左近の背中に回した。

「ねぇ、左近。ぎゅーってして?」

左近はゆっくりと三成を抱きしめる。三成が嬉しそうに笑った。まだ、朝は来ない。


夜と朝の間に…。



.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ