きゅ〜てぃ〜はに〜

□きゅ〜てぃ〜はに〜/act3.SHAOLEE
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リオンの去った方向をリンスはぼんやりと見つめたまま、
「もっと幸せにしてくれるやついるんじゃない……かぁ」
と、小さな声でつぶやいて、首をひねった。

うなづくつもりで言ったのに、
肯定したいような否定したいような落ち着きのない感情が胸の奥でざわめく。

隣を通った老人の視線に、リンスは小さく頭を振ると周囲にあわせ歩き出した。

適当に選んで進んできた道は、次第に細く人通りも少なくなっていく。

ぽつりぽつりとすれ違うのは、いかにもチャラそうな取り巻きとか、
到底働いている人には見えないおじさんくらい。
目を逸らしたくなるような人たちばかりだけれど、
行く当てがないという点で、リンスも同類なのかもしれない。

もう、帰ろうかな。

一人目的もなく町をさまよう、だらしなさや寂しさが、
トレインにすっぽかされたやり場のない感情を増幅させる。

気分転換に散歩をはじめたはずなのに、これでは逆効果だ。

リンスは溜息を飲み込んで立ち止まった。
そして、戻ろうかまだ行こうか、決めあぐねて迷うその瞬間、
背後からかすかに悲鳴が聞こえた、気がした。

リンスは顔を後ろに向けて、息をのむ。
目に映った、その姿は確かに彼だった。


「トレイン」


叫んだと同時に背中を押され、体が前へつんのめる。
2、3歩前に足がでて、ようやく止まれた。


「あ、大丈夫か?」


リンスを突き飛ばしてしまったトレインは、恐る恐るリンスに声をかけた。
振りかえったリンスは口をパクパクと動かしながらトレインを指差す。


「あんた、なにして」

「なにしてって、べつに散歩してて……」


『怒らなかった』リンスにトレインは面食らった。
言い返して、妙に様子のおかしいリンスをしげしげとみつめる。


「リンス見つけて声かけようとしたら、いきなり止まるから」


そう言って、トレインが首をかたむけて見せるが、リンスは目を丸くしたままあまり喋らない。

しかし、リンスからしてみれば、昨日からずっと想っていた人が目の前に現れた。
ましてそれが偶然だったから、動揺と期待が胸を高鳴らせ、頭がうまくまわらない。


「何だよ、ぼーっとして」


そんな状態に痺れを切らしたのか、不意に、トレインはリンスとの距離を近づけた。
不機嫌そうなその声にリンスは口を開きかけるが、言葉がはっきり出てこない。

気づけば、会話には不自然なほどに距離は縮まり、トレインは薄紫色の髪をさらりと撫で、ささやいた。
 
 
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