きゅ〜てぃ〜はに〜

□きゅ〜てぃ〜はに〜/act1.JENOS
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「…ねぇ、私の気持ち知っててやってるでしょ?
 …ばか」



足を抱いて、ベッドの上で三角座り、膝に顎をのせて呟いた。

今にも出てきそうな涙を必死に堪えて、何回も見たメールを削除して、携帯を投げ捨てた。

きっと後で自分で拾う。

その光景を思い浮かべ、余計惨めな気持ちになった。







「なら、もう連絡断っちゃえば良いじゃん」


「それは…」


「…嫌?」


「・・・」


大きなため息をついて、ジェノスはリンスの頭を撫でる。
リンスはその手を退けようとはせずに、目の前の酒を飲んだ。


「だっって、アイツが悪いんだもん」



久しぶりに会えると思った。

つい、昨日のこと。
たまたま近くにいたから、誘って
そして、約束したのだ。

待ち合わせの時間になっても来ないのはいつものこと。
3時間待たされた挙げ句、メールで『ごめん』だけ。
流石に悲しくなる。


当日になって断られるなんていつものこと。

掃除屋だもの。

急な仕事なんていつものこと。


『いつものこと』と、いくら自分に言い聞かせたって、悲しくないわけがない。



黙ってしまったリンスを見て、
ジェノスがリンスに酒を渡した。


「ジェノス…」


「ま、飲もうか
俺の前でハートネットの話はこれ以上無しで、ね?」


ニッコリと、絵に描いたように笑って、ジェノスが言う。


「…ありがとう」


小さく小さく言ったその科白は、しっかりジェノスの耳に届いた。

少し、複雑な顔をしたがリンスはそれに気付かない。

そしてリンスは渡されたコップを力いっぱい握って、
一気に酒を飲み干した。


「り、リンスちゃ…」

「バカ野郎―――!!!!!!」


突然の罵声に、リンスは店中の注目を浴びた。
だけどそんな事を一切気にせず、ウェイターに酒の追加を頼み
それらをどんどん飲み干していく。

唖然と見つめるジェノスをよそに、ビンを3、4本空けてしまった。


「あいつなんか…あいつなんか―――!!!!いっつもぜぇったい時間通りに来ないし、っていうかさぁ、メールも電話も嫌がるし…会うときだって、食べ物持ってる時しか喜ばないしさぁ…私はあいつの飯炊き女じゃないのよ!!!!女って言ったらサヤサヤサヤサヤサヤサヤサヤ!!!!!!いつまで引きずってんのよっ…そりゃあ…その気持ち、分からなくもないけどさぁ、私はそんなに心の広い女じゃないのよ!!昔の女想い続けてるやつを…いつまでも好きだと思うなよ馬鹿野郎―――!!!!!!!!」


言い終わって、息切れしながら次の追加を頼むリンスに、
ポカンと口を開いていたウェイターがタジタジに応える。


「のっ…飲み過ぎだよ、リン…」

「何よ!?」


リンスの睨みがジェノス止める
ジェノスは小さな小さな声で、何もありません、と言った。
もちろん、リンスにはそんな言葉は届いていない。

リンスが酔いつぶれるまで飲んだことは言うまでもない。
 
 
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