WJ系
□若菜と山吹
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それは確か、鯉伴の前の妻だと言われていた妖怪の名前ではないのだろうか。
知りたくもないような話を酔うと話してくれる妖怪がたしか言っていた気がする。
その“山吹乙女”と言う名は鯉伴がつけた。
それも衝撃だったが。
「・・・ってことは・・・この部屋って」
日記と部屋が残っていたことも驚きだった。
若菜はもう一度、部屋の中を見渡した。
すると、掛け軸が一つ。
かかっている。
「あれが・・・・“山吹乙女”?」
綺麗な黒髪が腰まであり、すらっとした目元。
美しい女の絵がそこに飾ってあり、足元には山吹の花が描かれていた。
若菜はページをめくった。
『あの方が妾に嫁になれと言ってくださりました。
これほど、幸せなことはないでしょう。
あの方のお傍にいたいと願いながらも、身分違いだと思っていたのですが、彼はそんなことないとおっしゃってくださいました。
妾は一生あの方についていく所存です。
鯉伴さま』
バタンっと。
若菜はあわてて日記を閉じた。
鯉伴と自分の年齢差を考えてことは何度もある。
人間と妖怪。
生きてきた年数も流れている時間も違う。
だけど、
「ダメ・・・もう読んじゃダメ」
これは鯉伴と山吹乙女の記憶だ。
それを覗いてはダメだ。
でも、気になる。
自分の前の奥さんとどんなことをしていたのか。
出会う前の鯉伴は一体どんな生活をしていたのか。
どうしていなくなったのか。
若菜はそっとページを開いた。
そして、読み始めた。
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