WJ系

□若菜と山吹
2ページ/8ページ


ドキドキしながらそっと鏡台の引き出しをあける。

何百年と使われていなかったかもしれないその引き出しは、なぜかすっと開いた。


「開いちゃった・・・・」


中にあるのは日記だと思しき、冊子だけ。

他の引き出しも開けてみるが、後は着物や道具。

墨に紙などが出てきた。

まるで、本当に今でも人がいるかのような空間であった。


「・・・これって・・・見てもいいかな?」


唯一見つけて読めそうなものはさきほどの日記のみ。

若菜はドキドキしながらそっと開けてみた。

が、並んである言葉は古典仮名で書かれている。

つまり、簡単には解読出来そうにもない。


「・・・ふふっ。私、こう見えて古典は得意なんだから!」


高校では古典は満点なんだからね!と、意気込み。

そっと一ページ目を読んでみた。


『雨が降っておりました。』


書きだしはこうだった。


『妾はただただ雨音をきいておりましたところに、少し気配がしたのです。

見れば、そこには男の人が一人。

雨宿りをしておりました。

妾に気づき、声を掛けてくれました。

そのお方は妾に怯えず、また乱暴もしませんでした。

彼の黒髪はとても綺麗で。

その目は深く、すべてを見通すような目でございました。

そして、その方は妾に名をお尋ねになられました。

ですが、妾には名がありませんでした。

そう言えばその方が付けてくれました。






“山吹乙女”





と』


しっかりとした文字で書かれていた。

若菜はその文字に目がとまった。






“山吹乙女”







.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ