WJ系
□愛してとは言わない
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「あの小娘が二代目のお子をね・・・」
「前の山吹乙女さまが不憫でならんよ。」
「子を置いて、死んでしまえばええのにのぅ」
「だいだい。あの二代目が人間の子にご執着しているかも怪しいからね」
下衆な笑い声が自室の前を通過する。
若菜は布団の上で横になったまま、唇を噛み締めた。
人である若菜は夜の世界のことは詳しくはしらない。
自分の夫になった奴良鯉伴の仕事も漠然と市か知らない。
どんな半生を送ってきたのかさえも知らない。
「・・・」
若菜はぎゅっと布団を握り締める。
朝まで少し目を閉じたらいい。
そうすればこんな心ない言葉を聴かずに済むのに。
それでも若菜は朝まで眠ることができなかった。
寝てしまえば最後、絶対に殺されそうだった。
(恐い・・・恐い・・・)
知り合いなんていない。
身の回りを世話してくれてる妖怪もいるが、この妖怪も他の妖怪同様に快く思っていないのかもしれない。
(恐い・・・恐い・・・誰でもいいから、助けて)
夫である鯉伴に言ってしまえばいいと何度も思った。
でも、それで他の妖怪の言っている通りだと言われたら?
その時はどうすればいい?
若菜は自然とお腹に手をやった。
(どうしてこんな事になったの・・・)
私はただ・・・
(私がただ・・・あの人が好きだっただけなのに)
こんな事になるなんて思ってもいなかった。
若菜は布団の中で小さくなった。
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