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□知らぬが仏
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 僕の趣味は『嫌がらせ』だ。
好きになった人の嫌がる顔がみたくって、始めたことだ。
本当はここまで長引かせるつもりはなかったんだけど、先輩がいい反応をしてくれるので楽しくなって、しつこく繰り返してしまうことになってしまった。
恨むなら毎度僕が好きな顔で嫌がる先輩自身を恨んでくださいね。
「・・・いい加減にしろよ・・・神川」
「なんのことですか?」
いつものように休み時間の一年生の教室に先輩はやってきた。
周りの同級生も「またか〜」と呆れた笑みを浮かべている。
僕は息を切らして、殺気立った目で睨んでくる三年生の七道先輩に笑顔で返事をする。
黒髪にぱっとしない、印象にも残らないと言われている顔は童顔だ。
先輩は金髪に左に三本のオレンジのメッシュを入れている。
正反対のような二人だけれども、僕が入学してからずっと続いている関係だ。
「なんのことですか。だ?人を馬鹿にすんのもたいがいにしろよ。後輩だって調子乗ってんじゃねぇよ。」
「嫌ですよ。先輩。僕は調子に乗ったことなんでないですよ。」
「は?」
「だって、先輩。嫌なら僕を殴ればいいじゃないですか。」
「・・・」
そうなのだ。
後輩なのだから殴ってしまえばいいのだが、先輩はできない。
殴りたいけど殴れないのだ。
僕が『どうぞ』と両手を広げて、殴られるのを待ってますってポーズをとれば、悔しそうに唇を噛み締める先輩。
その悔しそうな顔が僕の好みのストライクゾーンを射抜いているのに気づいているのだろうか。
かわいいなぁ・・・湊先輩って。
と、僕が先輩の『悔しい顔』に見とれていると先輩は小さい声でこう言った。
「殴ったりしねぇーよ。やめろよ。そうやって簡単に殴れとかいうの。」
「・・・だって、先輩。そう言うと悔しい顔するじゃないですか。それが見たくって。」
「は?なんだと!」
「ほら、そうやって怒る先輩の顔も好きなんですよ。かわいいですよ先輩。」
「っ〜・・・・触るな!」
「なんでですか?先輩の髪さらさらしているから、触ると気持ち良いんですよ。」
「やめろって気持ち悪いから。」
「え〜、傷つきますよ先輩。僕は先輩のこと大好きなのになぁ・・・」
と、わざとらしく頬を撫でれば、顔を真っ青にする先輩。
本当にかわいい。
「・・・そ・・・そろそろ、チャイム鳴るから・・・」
「送りましょうか?」
「いやいい。」
ロボットみたいにカチンコチン固まった先輩は慌てて一年のフロアから姿を消した。
僕が先輩にことを『かわいい』や『好き、愛している』というと顔を真っ青にする先輩が一番かわいいと思うのだ。
やっぱり、先輩は嫌がる顔が一番かわいい。
もっともっと、嫌がる顔が見たいって思っていると知ったら先輩はもっと顔を真っ青にするだろうか。
そんな先輩の顔を想像してしまって、僕は一人ニヤリと笑っていた。

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