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□天草編
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9年の7月23日木曜日の放課後


「明日から夏休みだよな〜。楽しみっ」

「楽しみって、毎日部活だけじゃん。そんな気全然しねーよ、俺。」


俺の横にいる天草 篆刻(あまくさ てんこく)は部活の用意をしながら本当に楽しそう俺に言う。

それが、可愛いなんて思ってしまうのだから俺の頭はもう限界だった。

それを悟られないように俺はそうだな、なんて頷く。

高校に入って、3ヶ月。

その間にも回りの奴は彼氏が出来ただの彼女が出来ただの。

そんな話もよく出るようになってきた。

始めての環境で、始めて仲良くなれた奴。

俺、勝山 昇(かつやま のぼる)にとっては同じ野球部の天草はその中でも特別だった。


「天草は部活以外に何すんだ?旅行行くとか?」

「あぁ〜・・・どうしよっか。何も考えてないんだよな」

「ならさ、俺といつか遊ぼうぜ。」

「遊ぶって毎日、部活で会うのにか?」

「いいじゃないか。別に。友達と遊びたい年頃なんだよ!」

「どんな。まぁ、いいけどな。」


天草は野球部のくせに髪が長くって、少し天パがかっていた。

前髪は目に掛かりそうで鬱陶しいのだが、何故か天草だと似合うと思ってしまう。

俺はこの友人に恋心を抱いていた。

世の中で言う、俺はゲイやバイに分類されるらしい。

女の子だって好きだ。

はるかに好きになるのは女の子の方が多い。

男を好きになったのはこれが始めてだ。

気持ち悪いって思われるってわかっているし、このまま天草と友人でもいい。


「あ、昇」


だから、下の名前を呼ばれるたびに嬉しくなったりするのは間違っているって思っている。

恋なんかじゃないって。


「なんだよ。天草」


だから、俺は天草の下の名前を呼ばない。

友達だって思っているから。


「今度の土曜日。映画行かね?なんか、隣のクラスのダンス部の奴に誘われてさ。昇が前に見たいって言ってた奴なんだよね」

「え?・・・メンバー誰だよ」

「俺とダンス部の奴とその友達の松本と甲斐って分かるか?」

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