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□佐藤家兄妹の話
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「いいかしら?春くん。」
「何回も言わなくっても大丈夫だから。任せて。」
「みこと〜。やっぱ、やめよ〜よ。俺、ヤだよ。だって、こんな可愛い子らを置いて行くなんて無理だよ〜。」
「泣かないでよ。あなた。春くんだってもう中学生なんだから大丈夫よ。」
「でも・・・るうとかどうするんだよ〜。」
「・・・」
玄関に並んでいるわが子に泣きすがりながら、佐藤家の大黒柱―佐藤 朗児(さとう ろうじ)は荷物を持って今にも出発しようとしている妻―佐藤 みことを見上げる。
玄関から見て、左から長男の春彦。
春彦に抱えられている長女の季乃慧は最近三歳になったばかりだ。
少し離れた位置にむすっとした顔で立っているのは次男の蓮。
そして、朗児に泣きながら抱きつかれているのは三男の流棋。
流棋の手には虫の図鑑が抱えられていた。
目の下には隈ができており、父親に抱きつかれていると言うのに、無表情だった。
「あなた、飛行機の時間もあるのよ。それに下でタクシーだって待ってるわ。」
「でも・・・みこと。きのだけは連れて行こうよ。ね?ね?」
「ダメよ。きのちゃんがしんどい思いをしちゃうのよ?あたな、わかって」
「う〜・・・みことが言うなら・・・」
「ありがとう、あなた。」
金髪がさらっと肩から流れる。
フランス人と日本人のハーフであるみことは、人形のような笑みを浮かべる。
朗児はなんとか涙を拭くと、流棋の額にキスをした。
「いい子でな。また本買ってくるからな。」
「・・・」
「蓮」
「いいから行けよ。俺はいいって。やめろって」
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