マギ2
□密告ゲーム(カシアリ←シン)
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密告ゲーム(カシアリ←シン)
「もういーか、アリババ」
「えっ、まだ。まだもうちょいだから」
「待ちくたびれた。開けんぞ」
うわわぁああ! と焦るアリババの声を無視して、カーテンは強制的に開かれた。
「何だよ。服きてんじゃねぇか」
「だって……心の準備が……ヘブッッ!」
女子みたいな格好で女子みたいな事を呟くアリババの頬に、カシムは容赦なく平手打ちを放つ。
「なにすんだよっ!」
ラグジュアリー系のカットソーにミニスカートで涙目になっている今のアリババは、どこから見てもクラブ系女だ。
後はウェッジソールのサンダルでも履かせりゃ完璧……。釣れすぎる位男が釣れる筈だ。
「? 何で黙ってっ……ヘブシッ! ………こらぁああ! なんで叩くんだよ!」
「なんかイラッとした」
「……はァア?」
「つか、なかなか可愛いじゃん。ふ〜ん……どれ」
「――……ッ!」
「……お前……意外と大胆だよな……」
興味本位で捲ったスカートの中がまさかのTバックで、それには流石のカシムも面食らう。
「てっきり中はトランクスだとばかり……。やるな、アリババ」
「用意されてたから履いただけだっての!いい加減手ェ離せよ!」
「ん――……。俺ちょっと楽しくなってきたかも」
「なっ、何言ってんだ! 仕事なんだぞ! 元はといえばカシムがいけないのに!」
「はいはい。わぁ―ったよ」
そう――。
アリババがこんなにフル装備で挑まなければならない事情が出来たのは、カシムのせいなのだ。
昨日ゲームセンターに立ち寄った帰り道。いつもふざけている二人だが、昨日は特にふざけ過ぎてしまった――。
何の弾みだったか。
アリババは車道に飛び出してしまい、危うく轢かれる所だったのを助けたのが、「シン」と名乗る男だった。
おかげでアリババには怪我一つない。しかし、両腕でアリババを包み込んで守ろうとした結果、直前まで男が抱えていた包みは、コンクリートに放り出されてしまった。
慌てて中身を確認するが、桐箱の中のシャンパンはとても保存の利く状態にはない……。
「弁償します。こいつが」
「ばか、連帯責任だ」
やいやい騒ぐ少年達を男は笑って許してくれたが、何せ高級そうな代物だ。
不可抗力とはいえ、このまま何のお詫びも出来ないのはとても申し訳ない。
二人のバイト代を合わせればどうにか…………などという考えは甘かった。
念のため尋ねた金額を聞いて意識が飛びそうになる。――想定していたよりゼロが一つ多い……
「いいよ。君が無事で良かった。シャンパンはまた用意すればいいだけの事さ」
一体この男どれだけ懐が深く温かいのだろう。
二人は目頭が熱くなるのを感じた。
しかし××万円と聞いてしまったからには、ここで立ち去るのもかえって躊躇われ、アリババは手を震わせながら財布の中身を確認し、カシムはカシムで、早速シフトを追加する計画を立て始めた。
そんな少年達の姿を見かねたのか、男はある提案をする。
「じゃあ、代わりに一つ頼まれてくれるかい?“銀行屋”って奴を探して欲しいんだ」
――……まあ、そんな訳で。
“銀行屋”なる人物が度々目撃されるクラブへこれから乗り込む所である。
「アリババくん、着替えは終わりましたか?」
シンの秘書を務めるジャーファルがにこやかな笑みと共にやって来た。
「ジャーファルさん? はい、終わりました」
「ふふふ。よく似合ってますよ」
「えっ……あっ、どうも。本当にこんな事でいいんですか?」
「いいですよ。我々では若者が多い場所なは行きにくいですからね。はい、これ。年齢確認された時に出す偽造身分証です。二人共、未成年だとバレないよう気を付けてくださいね」
「おいアリババ。この人絶対元はヤバい筋の人だぞ」
「ふふふ。誉め言葉として頂いておきますね。さあ、気を付けていってらっしゃい」
***
「シン、あの場では同意しましたが、無関係の少年達を巻き込むなんてどういうつもりですか」
「ただ中を見てきてもらうだけさ。それに、彼の気もすまないようだったし」
「ハァ〜……。そんなことを言って、ただアリババ君をもう少し見ていたかったからじゃないですか?シン、やらしい顔してますよ」
「えっ!? ほんとに!?」
「えぇ。どこからどうみてもエロオヤジそのものです」
「ジャーファルくん、最近俺に冷たくない……?」
―――――――
続いたり続かなかったり。
2014.5.18