短編
□セツ様、契鵺さんへ捧げ物(鉢雷)
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うっすらとした消毒薬の匂いがして、徐々に意識は覚醒へと向かう。
「………ッ!」
体を起こそうと筋肉に力を入れた瞬間、ずきりと全身に痛みが走った。
どこが痛いのかは、はっきりとはわからない。ただ体のあちこちがズキズキと痛む。
あまりの痛みに首から下を動かす事を諦め、重たい瞼を押し上げて目だけを動かす。
辺りの様子を伺おうと横を見ると、自分の顔が目に入った。
自分の勝手で、必死に護ろうとした、愛しい彼の顔。
その彼はハッとした表情のまま固まり、目尻に涙を滲ませながら、震えた声を発する。
「……ら…らいぞう?らいぞう!?」
「…やあ、さぶろう。」
渇いた口では、どうにも声が掠れてしまう。彼の涙が零れてしまわないよう、精一杯穏やかに口を開いたつもりだったのに、出てきたのは、いかにも怪我人らしい声だった。
「……なんて顔してるんだよ。僕はそんなに泣き虫じゃないよ。…僕の顔で泣くの禁止。」
「うるさいっ!雷蔵こそ、なんて怪我してるんだよ!……っ…ほんとに…、ほんとに…」
涙の伝う顔で、三郎は言葉を詰まらせた。
「ごめん。……さぶろうに、心配かけたくはなかったんだけど……」
−−でもね、君が傷付くところを見たくなかったんだよ。
「喋るなっ!いいから、黙って休んでて。」
三郎に遮られて、続きは紡げなかった。
「いま新野先生呼んでくるからなっ!」
三郎は慌てて立ち上がり、どかどかと足音を立てて廊下へ出ていった。
柄にもなく焦っている。
いつだったか、何を考えてるのが分からないミステリアスな所がチャームポイントだと豪語していたのに、これでは焦っているのがまる分かりだ。
彼らしくもない。
けれど、そうさせているのが自分だと思うと、自然と笑みが零れた。
(………あ。)
三郎がいなくなってから、片手が妙にすかすかすると思ったら……
布団が少しめくれている。
自分が寝ている間、三郎がずっと手を握っていてくれたんだ…
もう一度小さく笑みを零すと、生きている喜びを噛み締めながら、雷蔵は目を閉じた…−−
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セツ様の鉢雷小説に影響されて勝手に続きを書いてみた、いわゆる三次創作です←
セツ様まじリスペクト…っ!
中継役を務めてくれた契鵺さんもありがとう><
感謝を込めて、セツ様と契鵺さんへ捧げます…!
中途半端な話にも関わらず、最後までお読みくださった皆さんもありがとうございます!