マギ2

□フィンブルの冬(カシアリ)
1ページ/1ページ



※カシム生存、眷族ルート


 睫毛が凍る経験を初めてした。
 雪が視界を塞ぎ、霞のように星が光る夜の前で、カシムは風圧に押し負けそうになりながら、わざと雪の深い所に膝まで足を埋めてやり過ごす。
 凪いでいく風にいつまで身を切られていればいいのか。
 雪山の天気は大荒れで、今にも吹き飛ばされてしまいそうだった。


 迷宮の周りを巡回している狼が目印と聞き、それらしき足跡をここまで辿ってきたものの悪天候により突然それは途絶える。
 短時間でどんどん白さを増す極寒の地で進退を迷っていたそんな時、漸く身を隠せそうな洞穴を発見した。

「アリババ、こっちだ。今日の探索はもう諦めるぞ」

「カシムどこ―?あぁっ、クソ!見えねぇ!」

 よたよたと吹雪に攫われていくアリババ(たぶん目を開けられないでいる…)を引きずって、カシムは洞穴へと飛び込んだ。


 いざ中に入ってみると、そこは穴というより窪みといった方が近いような狭い空間だった。
 入り口から雪が吹き込んでくる度ピクピクとアリババは震え上がっていたが、幾分風圧は弱まっているし、外の吹き晒しよりは断然マシである。一晩凌ぐ位ならこれで十分だ。
 寒さに耐えかね、アリババはジュボッ、と金属器で火を起こす。
 荷を下ろして、トナカイの皮で出来た手袋を外すと、

「ふぁあぁ〜…あったけぇ……」

 と極楽を拝むように手を擦り合わせた。

 限られたスペースを有効に使おうと、カシムは断熱効果のある布を広げ、アリババを抱きかかえるようにして壁にもたれる。 詰めれば脚も伸ばせる上に、アリババの体温が心地良い。

「モルジアナも連れて来たら匂いで見つけられたんじゃねぇのか。狼なんて」

 ぱちぱちと小枝が爆ぜる音に包まれて、瞼を閉じたままカシムは言う。
 この雪で感知出来るかは微妙な線だが、明日再び足跡探しから始めなければならない事を考えたら、やっぱり彼女がいた方が早く迷宮攻略出来たのではないか、と。
 するとアリババは、

「だ、だって女の子は体冷やしちゃいけないってジャーファルさんが…!」

「……プッ」

「笑うな!」

 変な奴だ。
 モルジアナだって自ずから進んで眷族になったんだから使ってやればいいのに。
 彼女はアリババよりよっぽどタフで心配も少ないんだから――そう思うが、しかしアリババのその節介じみた優しさはそんなに嫌いではなかった。

「うっ〜……さみぃ〜……」

 まだ温まらないのか、アリババはほぉ〜と息を吐く。
 真っ白だ。
 断熱シートとアリババに挟まれたカシムは熱を取り戻しつつあったけれど、アリババが膝かけ代わりの毛布を抱き締めるようにしてプルプルしている所を見ると、空気はまだ冷えているみたいだ。

「…なぁ、アリババ。すぐに温まる事してやろうか」

「ズズッ――!……ズズッ――ッ!……ん?」

「……やっぱやめるわ」

 アリババが盛大に鼻をかんだ瞬間、やらしい気持ちを持ったのも声を掛けたのも間違いだったと気付いた。

「なんでお前ってそうムードないわけ?わざと?」

「…ズビッ……しょうがねぇだろ。お前こそ、くしゃみ一つしないとか何だよ。イケメンか」

「まぁ、お前よりはそうなんじゃね?」

「クッ……!」

 アリババは初めこそ面白い顔で悔しがっていたが、暫くすると悄々とうなだれて、毛布を涙で濡らしては鼻を啜った。

「どうせ俺はモテねぇよ……不甲斐ねぇよ……」

「はいはい、わぁったよ」

 カシムは羽毛のように柔らかい金髪をかき回す。

「アリババくんは男前ですよ、カッコイイですよ。眷族の俺が保証してやっから安心しな」

 ひたすらほめそやすと、ぐずぐずと顔を濡らしていたアリババはやっと顔を上げ、くすぐったそうな笑みと共に、実にお調子者らしい口調で言った。

「カシム、寝てていいぞ!俺火の番してるから!」


「んじゃ頼むわ。おやすみアリババ」


(チョロいなぁ…まったくよぉ……)

 欠伸がでる程温いその体を抱いて、カシムは吹雪が通り過ぎる音を夢現で聞いていた――


――――――
カシアリ寒いの似合わないなぁと思いつつ書いてみた←
マギの世界で雪国ってどんなだろうねぇ。
教えてヒナホホさん!

2013.2.16


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ