短編2
□sweet(鉢+勘)
1ページ/1ページ
春を感じさせる陽気にレースカーテンが揺れる。ヒーターをつけていなくても日差しだけで窓辺は暖かだった。
赤みのある髪をポニーテールのようにちょんと結んだ勘右衛門は日溜まりにころんと寝そべり、幼稚園で覚えてきたのではないだろう過激な内容の洋楽を口ずさんでいる。幼くやわらかい声で、Lu〜とかLa〜とか間奏までも表現していて、その記憶力とネイティブさながらの発音の良さには驚かされた。
先週の勘右衛門の世話をしていたのはタカ丸さんだから、きっとあの人の趣味でかけていた曲を覚えてしまったのだろう。子供はなんでも吸収してしまうから、気を付けなければ。勘右衛門を猫可愛がりしている兵助に後で何を言われるか分かった物ではない。
その面倒を除けば、本当に手の掛からない子だった。
家にいる間は絵本を読んだり、ぬいぐるみと戯れたり、折り紙の手裏剣を写真立てにぶつけてみたり(何故かハチの顔にしか当たらない)、一人で自由勝手に遊んでいる。
俺のする事と言えば食事を用意して風呂に入れるくらいで、楽なもんだった。散歩やトイレの世話がいらない分ペットより楽かもしれない。俺は今しているみたいに、珈琲を飲みながらレポートまとめる傍ら、時々ちょいと横目に見ているだけでいいのだから。
「何食ってんの?」
「くっき―」
さくっ、さくっという音がして、見れば両手に茶色と小麦色のクッキーを持って、代わる代わる味比べでもするようにして食べていた。豪快に食べる割には零してもいないので「そっか」とだけ言ってまたパソコンの画面に視線を戻す。
「ほわいとでーようにつくりすぎたからじぶんでたべてるの」
「女の子にか?」
「うん。おれもてるから」
「ふぅ〜ん」
「さぶろーはなにあげた?」
「あ〜…俺は」
…それを言われると、じくじくした気分になる。
本当の事を言う必要もないが嘘を吐くのも何となく躊躇われ、上手い台詞はないかと思考を巡らせていると、
「あっ、ごめんね〜」
わざとらしい声を出した勘右衛門はくすくすと笑い出した。
「先週雷蔵にフられちゃったんだよね!返す必要ないよね!」
――誰だいらん事吹き込んだのはッッ!
おおよそハチに疑いを絞り俺は復讐を誓った。
だがフられたと言っても俺はまだ納得してないし、雷蔵が旅行にさえ行ってなければまた惚れ直させる事なんて容易いのだ。帰ってきたらすぐにでも会いに行ってちゃんと話せば絶対に、絶対に!
「ふふふ。かわいそうだから、おれがすきになってあげる」
「―――!」
そう確信するのとは裏腹に傷付きもしていたので、おっとりと歩み寄って囁かれた言葉はとてもくすぐったい。
どこまでも無垢で愛に溢れた天使ように勘右衛門は笑っている。気が付けばレポートを放り出し、この天使にホットチョコレートを作ってあげてる俺がいた。
――――――――
勘ちゃんは魔性の子だよっ!←
鉢「刻みチョコいれる?」
勘「うん、いっぱーい!後生クリームも!」
鉢「他に欲しいのない…?(貢ぎ)」
ちなみに竹谷はなめられている←
2012.3.7