短編2

□溶けゆくは(竹綾)
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 灰色の雲の膜が時刻を隠す。身も縮むような冷たい風が太陽を追い払ったせいで方角も分かりゃしない。
 任務を終え後は基地から逃げるだけと思いきや、まだ残っていた敵兵に先回りされ、俺達の乗ってきたジープが爆破された。
 おまけに隔離された基地であったここには元々車もヘリも数台しかなく、そのどちらも俺達自らが使用不可にしてきた折の事だ。

「はぁ〜…三郎の奴。何が完璧な作戦だ」

 穴だらけじゃねぇかよ、と内心で毒づくも今更どうしようもない。極寒の孤立した基地に閉じ込められたのでは救助を待つより他になかった。
 スーパーマーケット程の広さしかない基地の中央にだけ今は暖気が通っている。
 する事もなく退屈し、俺は膝を抱えてただボ―…っと外の天気に似た鈍い色の天井を見上げた。
 すると何となく昨日の作戦会議の様子が思い浮かび、何か言いかけた兵助の顔と「いいからいいから」とそれをさらりと流してしまった三郎のにやついた口元の意味が、今になって分かった気がする。
 綾部と二人窮地に追い込まれて吊り橋効果…ってか?

「はぁ〜…」

 そんなんでこいつがドキドキしてくれる訳ないだろ…。
 真冬の大地のせいか自分の溜め息がひどく冷え切って感じられた。
 大雪の中溺れているっていうのに綾部は全く動じていない。
 部屋にあるモニターはぶっ壊して使えなくなってしまったので、自分で外の様子を確認すると綾部は竹谷を置いてずっと外に出ている。
 恐らく見張りとか偵察とかそういう真面目な意味は含まれておらず、ただ此処で大人しくしているのが気乗りしなかったからに違いない。
 家では部屋に籠もりっきりな癖に、任務に出ると途端こうだ。全く行動が読めないので、大体俺はいつも置いてきぼりをくらう。

 シュイ―――ンと、自動ドアが開いた。
 髪と睫毛を凍らせた綾部が思わずぶるりとする冷気を伴って戻ってきたのだ。

「先輩、かまくら作りましょう!」

「はっ!?なんで」

 開口一番、氷像のような顔で綾部は言う。この状況でどうしてそんな発想が出来るのか。つくづく謎な思考回路だ。

「雪質がちょうど良さそうだったから」

「あぁ…そ。まぁ、いっか…どうせ暇だし。…よぅし!作るぞ!」

 恋と錯覚するような要素など欠片もない。けれど汗みずくになって作ったかまくらの中で救助された俺達は、兵助から見ればとても似合いに見えたという。


――――――
庭にけっこう雪積もってたから思いつきで。三郎の日だけど竹綾でした。



2012.3.6


 

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